岡山アジア研究会 (1997年12月6日報告)
台湾桃園県の村にて
−アジア農村研究会1996年桃園県復興郷霞雲村調査報告−
第118回 岡山アジア研究会1997年12月6日
アジア農村研究会について
主宰者:桜井由躬雄(歴史地域学・東大教授)
1993 東北タイ調査 (イサーン地方、広域地方)
協賛:タイ国立シラパコーン大学
参加:飯島朋子、ポンペン、ナルミット、日本人学生約30、タイ人学生約10
1994 中部タイ調査 (ナコンパトム県)
協賛:タイ国立シラパコーン大学
参加:日本人学生約60、タイ人学生20弱
テーマ:農村の都市化
編成:個別調査班、測量班、寺院班、流通班
1995 上海調査 (松江県洞ケイ鎮花橋村)
協賛:上海社会科学院外事処
参加:日本人学生約30、飯島朋子、ポンペン、ナルミット、中国側なし
テーマ:農村の都市化
編成:全約6班が測量・個別調査担当
成果公表:川島真「アジア農村研究会上海近郊農村調査報告」(上,下)『近きに在りて』27,28号(1995年5,11月)、村井寛志「上海近郊農村における工業化と農業の展開----松江県の一農村の事例から----」『アジア・アフリカ歴史社会研究』第2号(1997年4月)、その他『中国研究月報』
1996 台湾桃園県調査
協賛:中央大学
参加:頼澤涵、張勝彦、日本人学生約35、台湾学生9人
テーマ:家計調査
編成:全約6班が測量・個別調査担当
1997 インドネシア調査 (スマトラ島広域調査)
(主に遺跡・景観など)
1998 (予定)マレーシア・ペナン調査 (Lorong Pekaka)
協賛:Universiti Sains Malaysia
長興村の状況
イバン・ユカン氏(at東大駒場、1996年2月14日)
復興郷のタイヤル−−Yanhabun, Habun, Sikei。 前山,後山
(日本時代)前山蕃、後山蕃(ガオガン蕃、マリコワン蕃、ギナジ蕃)、奥マリコ蕃
人さらいの伝統
霞雲村のキリスト教会
17世紀オランダ統治時代
日本時代:カトリック、プロテスタントの存在。理蕃政策−山地民撫育。
在台湾日本教会→在台日本人、山地民の神道への強制改宗
キリスト教徒の対台湾人(日本人を除く)人口比 1930=1945 約1.1%、 1970 3.3%(山地人では73%)米国援助、日本精神の空白(c.f.真耶蘇教)
現在:経済発展に伴う生活向上及び国民党教育の浸透で解消されるに伴い、キリスト教徒の比率も下がりつつある
(以下、神召会の呉武金牧師(インフォーマント=本人)および長老派教会の華進光牧師の家での聞き取り(インフォーマント=妻・楊銘華)はそれぞれ[呉]と[華]と省略)
1 霞雲村における各種キリスト教会と山地民
長老派、神召会(ものみの塔)、真耶蘇会(復興郷には10年以上前からカトリック教会[黄繁達])
◎長老派:35−40人程の信徒を有しており、最大勢力となっている[華、呉]
◎神召会:少なくとも山の方に15戸ほどの信徒家庭がある[呉]
◎真耶蘇会:常駐の牧師なく、礼拝のある土曜日に牧師が大渓から出張[呉恭助]
台湾全体では、カトリック、長老派、真耶蘇会の順に信者数が多い。カトリックがほとんど浸透せず、神召会が一定の信者を有していることが、この地域の特色。
山地民はほぼ100%がキリスト教徒[呉]、「山地民が大半がキリスト教徒は一般常識」(中央大生)←→村全体の若年人口が流出、老人と幼少者のバランス増加[華。長老派以外も同様ではないか]
漢人は大多数が異教徒。長老派教会では、漢人はクリスマスに遊びに来る[華]。
・「教会は、自分は行かない。廟も行かない」許文栄の山地民の妻・田月美[許文栄](文栄は福イ老人)(家族に漢人がいる場合、教会へゆく例)
・タイヤルの男と結婚した大渓出身の福イ老人女性、2カ月前病気になるまで水、金、日と長老派教会に通っていた[曽勇民]。
2 伝導の開始時期
◎長老派教会:約30年前に建てられた[許文栄]
◎神召会:呉武金氏が初代
氏は1937年生、18歳(1955年頃)にキリスト教徒となり、はじめ長老派であったが、1961年に神召会に改宗、霞雲村の神召会教会は1974年山の上に建てられたが、1995年に現在の位置に移された[呉]。信者の施水泉氏も、当初長老派だったが、17−18年前、呉武金氏に勧められて改宗したという[施水泉]。
◎真耶蘇会:詳細不明。
呉清敏氏はこの地で1967年に真耶蘇会に改宗[呉恭助]
楊銘華のpersonal history:
花蓮の玉山神学院を卒業。最初の3年が予備科(預備科)、次の4年が本科で計7年通ったが、この制度は1989年改編され、高校卒業後本科7年となり、修士号を得られるようになった。神学院の課程は神学系、キリスト教教育系、音楽系の3つに別れ、彼女はキリスト教教育系を専攻。また玉山神学院には外国人の先生以外はすべて原住民の課程もあり、霞雲村付近の山地人の牧師はみなこの玉山神学院出身。楊銘華はタイヤル、夫・華進光氏は屏東出身のバイワン。神学院で出会い、1989年結婚。以降、豊元、新竹に勤務し、霞雲村に来た[華]。
3 財政
◎長老派:
華進光の家の収入は、教会からの実入りが最も大きい。水道代や子供の学費はすべて教会の支出で賄われ、加えて寄付金「奉献」から可処分所得として得られる収入が月額2万元強となる[華]。信徒呂新妹の証言では、寄付は100元から多いときは1000(500?)元くらい[許文栄]。仮に一度の1戸の寄付を250元、日曜に寄付をする信徒戸数20とすれば月に2万元となるから、寄付金による収入はこの程度? 特別な支出として、キリスト教関係のものを個人で月に2000−3000元ほど購入。家計支出としては自家用車の税金・保険関係がやや負担大[華]。
◎神召会:詳細不明。青木所見では、教会の建築、牧師の家の家具その他から見る限り神召会より長老派の方が裕福、顕著な差。
4 活動
礼拝
◎長老派:日曜日午前10時〜11時
日曜日に主日学校、青年会、婦女会、一般礼拝の4つ。金曜日に祷告会、各家庭で水曜日よる7時から家庭礼拝。3カ月に一度、幹部会[華]。
◎神召会:日曜日午前9時〜12時
日曜の礼拝の外に、水、金に家庭訪問があり、呉武金氏が山の方の15軒の信徒の家にバイクで訪問する[呉]。なお呉武金氏は数年前に交通事故で足が不自由となり、125ccの改造三輪バイク(身障者のためバイク購入には補助等の措置があるが、改造費は自前)を日常の足とする。呉武金氏、李右治氏とも「神召会も長老派も、特に違いはない」[呉、陳春発]。
◎真耶蘇会:土曜日
大渓から来る牧師が日曜は大渓で礼拝を行うため?
教育
霞雲国民小学校ではタイヤル語の教科書は準備中だが既に神召会の教会では口頭でこれを教えている[学校]。長老派教会でも、主日学校で子供にタイヤルの言語・文化を教育している[華]。
◎長老派:
楊銘華氏がタイヤル語を用いて新約・旧約聖書を講義[許文栄]、楊銘華・華進光夫婦間では意志疎通に国語、ある程度台湾語も理解、教会学校での子供達へのタイヤル教育は、タイヤル人の楊銘華氏があたる[華]。
◎神召会:
信者はタイヤル名、国語を用いて聖歌[陳春発]。しかし礼拝堂にローマナイズされたタイヤル語の聖歌集。ローマニゼーションの統一問題への貢献?
◎復興郷のカトリック教会にイタリアから教えに来る人は山地語ができる[黄繁達]。
5 内外の人的交流
頻度
「毎日曜日、教会へ行く」[施水泉、許文栄]
週3回行く[曽勇民]
毎日夫婦で教会へ行き祈祷[呉恭助]
祖先崇拝
「キリスト教徒なので拝拝はしないが、清明節には一家で集まって墓の掃除くらいはする」(長老派)[楊こうめい]
「祖先を祭るのは1年1回。教会で。廟はない。我々の廟は教会だ」(神召会)[陳春発]
結婚
・玉山神学院で結ばれた華進光牧師夫妻
・呉清敏夫妻:1970年、真耶蘇会牧師の紹介で結婚している[呉恭助]
外部との交流
・真耶蘇会の牧師は大渓から(前出)
・村外から1年に数人のアメリカ人キリスト教徒が訪問している[派出所]
・呉武金氏は以前西海牧師という日本人と交流(村外か?)、その関係で顔金龍なるものが4年間日本に留学。呉武金氏の自宅には、わりと最近のものと見られるものみの塔の日本語パンフレット。呉氏夫妻は家庭内で日本語。
その他、教会が政治団体として機能する可能性−−
台独を戦った長老派教会。伝統儀式や歌などの伝承とともに原発被害告発の主体となっている蘭嶼タオ族(ヤミ族)の長老派牧師[毎日新聞96.8.14]
参考文献
郭文般 1985『台湾光復以後基督教在山地社会的発展』(台湾大学修士論文)
菫顕光 1970『基督教在台湾的発展』(台北)
黄応貴 1986「台湾土着族的両種社会類型及其意義」『台湾土着社会文化研究論文集』 (聯経出版)
鄭児玉 1981「台湾のキリスト教」『アジア・キリスト教史』(教文館)
李亦園 1982『台湾土着民俗的社会与文化』(聯経出版)
林建二 1972『台湾山地教会』(台北山地宣道委員会)
宋泉盛編(岸本羊一監訳)1986『台湾基督長老教会獄中証言集』(教文館)
乾淑子 1985「ヤミ族 (台湾)の船と教会」『季刊民族学』9-1
坂本進 1981「中国福伝大会与日本福伝大会−経済和宗教」『鐸声』(台湾)1981年4月号
------ 1987「中華民国台湾のキリスト教と国際文学宗教会議」『福音宣教』1987年3月号
------ 1988「台湾山地同胞 (旧台湾高砂族)とキリスト教」『宗教研究』62-3
水野誠 1988「普世的 (エキユメニカル)であるとともに郷土の民と1つ--台湾基督長老教会信仰
告白の日文訳について」『基督教論集』31
森山昭郎 1992「日本統治下台湾のキリスト教」『東京女子大学比較文化研究所紀要』53
Gates, Alan Frederick 1979 イChristianity and animism in Taiwan. San Francisco :Chinese Materials Center.
Rubinstein, Murray A. 1991 イThe Protestant community on modern Taiwan :
mission, seminary, and church. Armonk, N.Y.: M.E.Sharpe.
Tong, Hollington K. 1961 イChristianity in Taiwan:a history. Taipei:China Post.
台北帝国大学土俗族人類学研究室『台湾高砂族系統所属の研究』(凱風社)
台湾省政府民政庁『中華民国五十六年台湾省山胞経済調査報告』1969
------『中華民国五十八年台湾省平地山胞経済調査報告』1971
------『中華民国六十七年台湾省山胞経済調査報告』1980
------『中華民国七十四年台湾省山胞経済及生活素質調査報告』1986
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