「シルクロード東部の文字資料と遺跡の調査」科研研究班・中央ユーラシア学研究会:共催ワークショップ

ユーラシア東部地域における公文書の史的展開

―― 胡漢文書の相互関係を視野に入れて ――

最終更新:2013年10月30日

 2013年9月21・22日、科研(基盤研究A)「シルクロード東部の文字資料と遺跡の調査」の研究班と中央ユーラシア学研究会との共催で、ワークショップを開催しました。ユーラシア東部地域より出土した胡漢文書に見える「公文書」について検討することを趣旨としています。詳細は趣旨説明をご覧下さい。

日時

2013年 9月21日(土)・22日(日)

両日とも10:00〜17:30

会場

大阪大学 豊中キャンパス(〒560-8532 豊中市待兼山町1-5)

文法経本館 (21日:大会議室、22日:中庭会議室

アクセスマップ (「豊中キャンパスMAP」4番の建物)

※1日目・2日目で会場が異なりますのでご注意ください。

※22日(日)は、周辺に昼食をとる適当な店が休日のため利用できません。

報告者

総括 荒川正晴(大阪大学・文学研究科・教授)
漢文文書 赤木崇敏(大阪大学・文学研究科・助教)
坂尻彰宏(大阪大学・全学教育推進機構・准教授)
伊藤一馬(甲南大学・文学部・非常勤講師)
舩田善之(九州大学・人文科学研究院・講師)
ウイグル文書 松井太(弘前大学・人文学部・教授)
チベット文書 岩尾一史(神戸市外国語大学・研究員)
西夏文書 佐藤貴保(新潟大学・研究推進機構・准教授)
トカラ文書 慶昭蓉(ベルリン=ブランデンブルク科学アカデミー・トゥルファン研究所・特別研究員)
招待講演者 栄新江(北京大学・歴史系・教授)
通訳 白玉冬(内モンゴル大学・蒙古史研究所・副教授)

プログラム

21日(土)

講演中の栄新江氏(左)と通訳する白玉冬氏(右)
講演中の栄新江氏(左)と通訳する白玉冬氏(右)

- 午前 -

10:00-10:10

ワークショップ趣旨説明(荒川)

10:40-11:40[招待講演]

栄新江「新発現的唐代于闐地方軍鎮的官文書」

(昼食)

- 午後 -

漢文文書

13:00-14:00

赤木崇敏「唐代公文書の体系と展開」

14:00-15:00

坂尻彰宏「帰義軍期敦煌の公文書」

(15:00-15:30 Coffee break)

15:30-16:30

伊藤一馬「カラホト出土文書に見える宋代公文書」

16:30-17:30

舩田善之「漢語文書に記録されたチャガタイの令旨とタムガ

──モンゴル時代初期の石刻史料より──」

18:00-20:00

懇親会(待兼山会館)

22日(日)

- 午前 -

10:00-11:00

CHING Chao-jung (慶昭蓉)

“Tocharian official documents: Kuchean laissez-passers and other fragments.”

11:00-12:00

岩尾一史「古代チベット帝国の公文書と行政用語」

(昼食)

- 午後 -

13:30-14:30

佐藤貴保「西夏の官文書の書式について ──カラホト出土文書を中心に──」

14:30-15:30

松井太「古代ウイグル語の行政文書 ──税役関係文書を中心に──」

(15:30-16:00 Coffee break)

16:00-17:30

全体討論

総合討論のようす
総合討論のようす(2日目)

趣旨説明

荒川正晴教授

 荒川(阪大)を代表とする科研(基盤研究A)「シルクロード東部の文字資料と遺跡の調査」は、今年で最終年度を迎える。そこで、本科研の検討課題の一つであるユーラシア東部地域における公文書をテーマとして、中央ユーラシア学研究会との共催というかたちでワークショップを開催することにした。

 もちろん公文書と一口に言ってみても、それを如何に定義するか問題はあるが、それについては後掲の注記を参照して頂きたい。ここでは、一般的に帝国とか王国とかと呼ばれるレベルの政治権力体を構成する機関内や諸機関同士、さらにはそうした機関と個人が、中央や地方で発出・受領する公文書を主に扱うことになるかと思う。

 私自身はこれまで漢文文書を中心に、唐代の地方州県で作成された公文書を扱ってきたが、本科研に参加している研究者には、ウイグル語、チベット語、西夏語、モンゴル語などの文書を扱う研究者がおり、通常ではなかなか得られない貴重な人材が揃っている。また中国からは、中国の出土資料研究をリードしておられる栄新江先生に、コータン新出の公文書に関するご講演を特別にお願いし、併せてトカラ語文書の専門研究者にも参加してもらうことになった。今回のワークショップにおける報告者は、以下に掲げる通りである。

報告者:

総括 荒川正晴(大阪大学・文学研究科・教授)
招待講演者 栄新江(北京大学・歴史系・教授)
通訳 白玉冬(内モンゴル大学・蒙古史研究所・副教授)
漢文文書 赤木崇敏(大阪大学・文学研究科・助教)
坂尻彰宏(大阪大学・全学教育推進機構・准教授)
伊藤一馬(甲南大学・文学部・非常勤講師)
舩田善之(九州大学・人文科学研究院・講師)
ウイグル文書 松井太(弘前大学・人文学部・教授)
チベット文書 岩尾一史(神戸市外国語大学・研究員)
西夏文書 佐藤貴保(新潟大学・研究推進機構・准教授)
トカラ文書 慶昭蓉(ベルリン=ブランデンブルク科学アカデミー・トゥルファン研究所・特別研究員)

 胡漢にわたる公文書をテーマにして、これだけのメンバーが一同に会し議論するのは、おそらく今回が初めてであろう。私が代表となっている関係もあり、どうしても漢文文書が中心になってしまう側面はあるが、漢文だけでなく様々な言語に視野を広げ、公文書について相互に情報を共有し、諸言語のそれら同士の関係について議論することができればと思う。本テーマに関して十分な意味ある成果を得るには、粘り強く議論を重ねてゆくしかないが、今回がその契機となれば幸いである。


※[本ワークショップでの公文書について]

(1) 文書(古文書)の定義[Cf. 佐藤1990;2003, pp.1-3.]

 文書とは、一般的に「特定の対象に伝達する意思をもってするところの意思表示の所産(=甲から乙という特定の者に対して、甲の意思を表明するために作成された意思表示手段)」と規定される。またこれは後日の備忘証明のために作成される記録とは明確に区別される。ただし、この文書と記録の間には、授受関係はないが単なる備忘録などではなく、他者に一方的に働きかける書面がある。すなわち帳簿・証書・目録・名簿などである。これは管理・同定のための照合を機能とするものであり、ここではこれらも文書に含むことにする。

(2) 文書のなかでの公・私の別

 公・私が指す範囲を厳密に分けて文書を捉えることは困難である。何故ならば、単純に公・私文書のどちらかに分類することができないものがあるからである。例えば、致書文書(書簡様文書)などはその好例である。

(3) 公文書と官文書の区別

 公文書と似たような表現として官文書がある。この点については、既に中村裕一により、両者は以下のように定義されている。「皇帝の名で公布される文書(制勅類)と、官府間や官人間等において行用される文書(官文書)を総称して「公文書」と表現する」[中村1991A, p.5; 1991B, p.5]。これまで大枠としてはこの定義に依ってきたが、この見解が有する問題点・不備などについては、漢文文書を扱う赤木報告に譲る。


(参考文献)

佐藤進一

1990(1976初出)「中世史料論」『日本中世史論集』岩波書店.

2003(1997初版)『新版 古文書学入門』法政大学出版局.

中村裕一

1991A『唐代制勅研究』汲古書院.

1991B『唐代官文書研究』中文出版社.

(文責:荒川正晴)


中央ユーラシア学研究会トップページ / 阪大東洋史トップページ