第2回全国高等学校歴史教員研修会のご招待

大阪大学21世紀COEプログラム「インターフェイスの人文学」

「世界システムと海域アジア交通」班 

大阪大学大学院文学研究科(世界史講座)・教授 桃木至朗

大阪大学では大学院文学研究科を中心に、文部科学省21世紀COE(Center of Excellence)プログラムの一つである「インターフェイスの人文学」を、平成14年度から18年度までの予定で推進しております(代表:鷲田清一副学長)。「インターフェイスの人文学」は、マルチメディア技術を共通の土台としながら、人文系の各学問分野や諸国家間の垣根を越えうる「横断的な知」と、大学と社会のさまざまな現場をつなぐ「臨床的な知」を構築しようとするプロジェクトです。

このプログラムの一環として歴史部門は、平成15年度まで中央ユーラシア史を中心とする「シルクロードと世界史」班(代表:森安孝夫教授)として活動し、報告書として『シルクロードと世界史』(「インターフェイスの人文学」報告書シリーズ第3巻)を刊行いたしました。今年度からは、海域世界を中心とする「世界システムと海域アジア交通」班(代表:桃木至朗)に移行しますが、日本史・世界史(東洋史・西洋史)など縦割りにされた歴史研究の統合と、その成果にもとづいた高校・予備校の現場との交流や教科書執筆などの目標は従来通りです。昨年「シルクロードと世界史」班が開催した高校世界史教員研修会には、全国から72名という多数のご参加をいただきましたが、第2回の歴史教員研修会を今年も計画しております。そのねらいは、事項や年代の羅列でなく「筋がある」「考え方がわかる」「像を結ぶ」歴史教育を高校レベルで実現するための材料を、最新の歴史学にもとづくが過度に詳細でなくむしろ歴史学の全体を見すえた巨視的な講義、それに対する質疑・討論という形で提供することにあります。

近年の高校歴史教科書や大学入試問題では、「ネットワーク論・システム論」や「時間の認識」など部分的に流行の新しい学問が取り入れられています。が、そこには、受験界の保守性や、「全体を見渡す」習慣と能力をひどく欠いた日本のアカデミズムなどさまざまな障害物が立ちはだかっています。その結果、新しい考えは、古い欧米中心主義や閉鎖的一国史観など「1周遅れ、2周遅れ」の何種類もの枠組みと入り混じり、かえって高校生・受験生を困惑させ、「歴史離れ」を助長しているように思います。激動する現代世界に、青年たちをそんな状況で送り出すことの危うさは、高校の先生方が日々感じておられることでしょう。もとより数回の研修会ですべての主要問題を取り扱うことは不可能ですが、私たちのプログラムは、個々の「新しいネタ」の提供というより、それを生かせる新しい枠組みの構築と、そのための「古いネタ、古い枠組み」の整理を、強く意識しています。

今回のテーマは「アジア史と日本史の対話」です。現在の高校歴史教育における世界史とりわけアジア史と日本史との関係には、改善の余地があるように思われます。たとえば私たちは、日本が部分的にしか出てこない現在の世界史に不満をもち、コンパクトな日本通史を組み込んだ世界史教育をすべきだと考えています。その理由は第一に、日本の高校生に必修科目として教える世界史に日本がときどきしか出てこない(世界もアジアも、日本の外にあるものと考えさせたい?)のはおかしいこと、これと関連して第二に、日本は「孤立した特殊な国」ではなく、世界とくにアジア諸地域の歴史は、日本の役割や日本との比較に注目することでよりよく理解できるケースが多いことにあります。なんといっても日本史は、史料が豊富で細かいところまで詳しい研究がおこなわれていますので。また第三に、現在の世界史教育は、中心的・代表的な大文明・強国以外は無視する観点に立たず、文字通り全世界をカバーしようとしています。

一方、科目としての日本史においても、その国際化はいまや常識ですが、朝鮮半島・中国や近代の欧米との関係を表面的に扱うだけでは、そのなかから歴史的に成立した「日本一国主義」を再生産することになりかねません。中華帝国など東アジア世界の構造や論理、アジアにおける近代のあり方などをより掘り下げる一方で、東南アジア世界や東北・中央アジア世界なども視野に入れなければ、日本史の独自性を深く理解することはできないでしょう。昨年の世界史教員研修会でも、一部に日本史にかかわるテーマが含まれていましたが、今年度はそれを正面から取り上げ、研究者も高校教員も、世界史・日本史両方の専門家が参加して、両方の視点と立場を出し合い、刺激しあって、両方の歴史研究・教育の刷新に貢献しようというのが、今回の研修会の意図です。

第2回研修会の会場・日時・プログラムと講師紹介は別紙の通りです。会場は100名あまり収容できますので、広く全国から参加者を募集したいと考えます。参加費・教材費などはすべて無料です。遠方からご参加の方で必要な方には、旅費・宿泊費も主催者側で支給いたします。参加される先生のご専門・ご担当は世界史・日本史どちらでもけっこうです。ただし、

  1. 原則として3日間すべてのプログラムにご出席いただきます。
  2. 研修会後、約1週間以内に2〜3枚程度のレポートをご提出いただきます。
  3. 「インターフェイスの人文学」実施期間を通してなるべく多くの地域の、多数の先生方にご参加いただきたいので、第1回にご参加の先生は原則としてご遠慮いただく考えです。
  4. 同じ理由で、同一都道府県からの参加申し込みが多数になった場合は、参加をお断りする場合があります。あらかじめご了承下さい。

出張旅費の計算やホテルの手配などに時間が必要ですので、参加申し込みの締め切りは5月31日(月)必着(電子メールの場合は5月28日(金))とさせていただきます。申し込みは、参加申し込み要項の書式にのっとっていただければ、電子メールでもかまいません。

以上、ご高配のほど、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

2004年4月1日 


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