全国高等学校歴史教育研究会

大阪大学21世紀COEプログラム「インターフェイスの人文学」に属する「シルクロードと世界史」班(代表:森安孝夫教授)、そして2004年度よりそれを引き継いだ「世界システムと海域アジア交通」班(代表:桃木至朗教授)は、このプログラムにおける主要な研究目標として、

の二つを掲げてきました。そして、後者の研究目標を実現するために、大学の研究現場と高校の教育現場との対話・連携の場という、まさに「インターフェイス」の場を創出すべく、全国の高等学校歴史教員を対象とする研修会・研究会を2003年度より4度にわたって開催してきました。

現在の日本では、社会人の世界史認識の基本の殆どが、高校時代の世界史教育とその延長線上にある受験世界史によって形成されていると考えられます。しかし、現在の世界史教育は、ヨーロッパや中国を「中心」「勝者」とする旧来の史観の呪縛を強く蒙っていると言わざるを得ません。そこで、本研修会では、このような歴史の見方からの脱却を主要な目的の一つとしています。従来の史観では「周辺」「敗者」としか見なされていない中央ユーラシア、東南アジアなど地域世界や「海域史」の分野を主題に据え、世界史研究の最前線の成果を提示してきました。

また、われわれは、現在の日本の歴史教育における大きな問題点として、大学の研究現場と中等教育機関の教育現場とを結ぶ層の薄さを痛感しています。そしてこのような状況の中で、高校教員こそが、この重要な役割を担うべき高度職業人であると認識しています。そこで、われわれは、本研修会のもう一つの主要目的を、このような重要な立場にある高校教員と対話しつつ新たな世界史教育を創造していくための場の確保と継続という点においています。

4度の研究会は大きな成功を収めましたが、これを一過性の取り組みに終わらせずにさらに前進させるべく、大阪大学歴史教育研究会が新たに設立され、活発な活動が展開されています。

過去の研修会

《インターフェイスの人文学》国際シンポジウム

模擬授業「北から見る、南から見る−中国とはなにか?」

模擬授業の風景模擬授業の風景

2006年10月15日、大阪大学中之島センターで《インターフェイスの人文学》国際シンポジウムが開催され、「世界システムと海域アジア交通」班は、「北から見る、南から見る−中国とはなにか?」と題し、高校生・高校教員に対する模擬授業を実施した。

冒頭で、印牧定彦氏(京都市立堀川高等学校教諭)が高校教育の現場で感じている、中国史教育の疑問点や問題点を提起し、これに答える形で桃木至朗(大阪大学教授)と佐藤貴保(大阪大学特任研究員)が模擬授業を展開した。

授業では、中華帝国がしばしば遊牧民などによる北方からの征服を受けながら20世紀初頭まで存続し、その結果様々な民族が交流・融合してできた今日の超多様な社会が完成したことを、桃木が五胡十六国・北朝・隋・唐の例から、佐藤が遼・金・西夏をはじめとする征服王朝の多元・多重統治体制及び中華人民共和国の民族政策から説明した。また、桃木は南方に拡大することでさらに新しい性格を付け加えた中国社会が、現代世界で活躍する華人ネットワークの拡大にも大きな影響を与えていることを指摘した。

授業を行うにあたり、本プログラムが目標として掲げてきた「臨床的な知」を歴史学にも応用することを目標とした。そこで、当班で毎年度開催した「全国高等学校教育研究会」を通じ高校教員から指摘された歴史教育に関する問題点に答えるべく、高等学校で教えている歴史事項と現代社会とのつながりを意識した授業展開を図った。

模擬授業には、大阪大学の学生・教職員のほか、京都市立堀川高等学校と六甲高等学校(兵庫)の生徒、近畿各府県の高等学校教員などあわせて約40名が参加した。模擬授業終了後には討論会が行われ、高校生からの質問にも答えた。模擬授業ではアンケート・質問票が配布されたが、その集計結果と質問に対する桃木・佐藤の回答についてはPDFファイルを参照されたい。

なお授業では、佐藤が西夏文字で日本人の名前を書く実演をおこなったが、その後高校で西夏文字で名前や数字を書く生徒が現れるなどの社会現象(?)が起きたという。

※模擬授業で使用した西夏文字の文字表は、荒川慎太郎氏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助手)が作成したものです。詳しくは国立民族学博物館発行『月刊みんぱく』2005年2月号、16〜17ページの「西夏文字で名前を書く 1」をご覧下さい。

アンケート・質問回答(pdfファイル)


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