■全国高等学校世界史教員研修会

 2003年8月5日より7日にかけて「全国高等学校世界史教員研修会」が大阪大学で開催された。この研修会は,大阪大学の21世紀COEプロジェクト「インターフェイスの人文学」において,森安孝夫教授が代表を務める「シルクロードと世界史」班の活動の一環として企画されたものである。「シルクロードと世界史」班の目標の一つは,最新の歴史研究の成果を反映した形で,高校世界史教育を刷新することである。その実現のため,世界史教員と大学側との連携・対話の場として,この研修会が催された。(研修会の趣旨についての詳細は研修会の趣意書を参照されたい。)これは他に例を見ないユニークな試みで,当日は全国から72人の高校世界史教員の参加があり,関心の高さがうかがわれた。

 研修会は,大阪大学の教官を中心とする講師陣から,最新の研究成果・新しい世界史教育の方法等について講義があり,講義終了後,質疑応答をするという形式で進められた。また一・二日目終了後に質問票を各参加者に記入してもらい,翌日にそれらに回答するという形で,高校教員と大学側との意見交換ができるかぎり多く図られた。

 最新の研究成果を講義する際,専門的な情報が参加者に分かりやすく,かつ正確に伝わるよう,講師陣によって専門用語の詳しい解説,プロジェクターを利用した映像を織り交ぜての講義がなされた。参加者は,それぞれ世界史教育の現状に問題意識を抱いており,各講義の内容は興味深いものとなったのではなかろうか。その証拠に質疑応答では,最新の研究に対する疑問点から難解な歴史事実をいかに教えたらよいか・今回聞いた講義を教育現場でどのように生かせばよいかというものまで多岐にわたり,とても時間内に収まりきらないほどであった。にわかに答えがたい質問が多数提出され,講師陣が回答に窮する事もあったが,そのような問題を討論することができたことは,世界史教育の向上という点からすれば歓迎すべき事であったと言えよう。最終日の全体討論会では,高校教員側から授業運営の難しさ,受験世界史へ対応せざるを得ないジレンマなど,実際の教育現場から生まれた切実な意見が出された。そして,今後も大学と高等学校の教育現場とが交流できるような場を設けるよう要請があった。

 このように,主催側のねらいと参加者のニーズが一致した今回の試みは大成功であったと評価できるであろう。阪大側としては,この社会的な要望に応えるべく,今後も大学と高校等の教育現場との接点をつくる試みを続けてゆかねばならない。
 なお,本研修会の報告書『シルクロードと世界史』が近日刊行される予定である。