【概括】
以上述べた所によれば、口語は、第二期即ち平安朝から室町時代に至る間に於て、種々の點に於てその面目を改め、更に江戸時代の初期に於ける種々の變化を經て遂に現代口語のやうな特徴を具ふるにいたった。現代の標準語及び多くの方言は、語彙や種々の表現法に於ては江戸時代の口語と大に趣を異にした所があるけれども、その音聲及び語法の大綱に於ては、江戸時代の口語とさしたる相違は無い。但し方言の或ものに於ては、二三の重要なる點に於て、今猶第二期の言語の特徴を殘してゐるものがある。例へば、九州の大部分や土佐の方言にジとヂ及びズとヅの區別があり、九州の大部分や紀州の一部に二段活用の動詞が殘り、東北や出雲の方言にハ行音の或ものにFの子音を存するなどその例である。
【參考書】
國語史概説 吉澤義則
口語法別記 大槻文彦
高等國文法 安田喜代門
假名遣及假名字體沿革史料 大矢透
疑問假名遣 國語調査委員會
古代國語の研究 安藤正次
奈良朝文法史 山田孝雄
假名遣奥山路 石塚龍麿
上代の文獻に存する特殊の假名遣と當時の語法 橋本進吉(國語と國文學第八卷第九號)
古言衣延辨 奥村榮實
平安朝文法史 山田孝雄
平家物語の語法 山田孝雄
足利時代の言語に就いて 新村出(東方言語史叢考)
室町時代の言語研究(抄物篇)湯澤幸吉郎
文禄元年天草版吉利支丹教義の研究 橋本進吉
國語史上の一劃期 春日政治(日本文學講座)
近代口語一斑 松尾捨治郎(國文法論纂)
外來語について 市河三喜(ことばの講座第一輯)