• 田中均

    美学
    Hitoshi Tanaka
    Aesthetics

    1974年生、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了(美学芸術学 2007年)博士(文学)山口大学人文学部講師および准教授(2008年から2012年)を経て現職、2016年から大阪大学コミュニケーションデザイン・センターおよびCOデザインセンターに派遣。日本シェリング協会第7回研究奨励賞(2011年)。

    私の研究の出発点は、18世紀末から19世紀の初頭にかけてのドイツ語圏の美学です。 具体的には、フリードリヒ・シラーとフリードリヒ・シュレーゲルの美学理論について研究し、その成果を著書『ドイツ・ロマン主義美学』にまとめました。 近年注目しているのは、芸術理論における「参加」の概念で、芸術作品とその受容者の関係、また専門的芸術家と非ー専門家の関係について考察しています。 さらに、「テアトロクラティア」という概念を通じて、芸術とデモクラシーとの関係を解明することも現在の課題です。

    私は「美学」という学問を紹介する時に、「広い意味での哲学の一分野で、芸術・美・感性がその三大テーマです」と話します。 そして「三つのどれかに関係すれば、美学の問題になると言えます」と付け加えます。 確かに論理ではなかなか捉えがたい分野ですが、だからこそ一歩ずつ思考していく喜びや意義も大きいのです。 近年では芸術や感性にかかわる新たな学問分野がいくつも生まれていますが、原理的な問いに立ち返ることによって学問相互の、そして学問と実践の交通整理をするという美学の課題はかえって増していると思います。


  • 高安啓介

    デザイン学
    Keisuke Takayasu
    Design Studies

    大阪大学大学院文学研究科博士課程修了(芸術学) 博士(文学)1993年 一橋大学社会学部卒業、2002年から2016年まで愛媛大学法文学部講師・准教授。

    18世紀にバウムガルテンが美学を「感性的認識の学」として創始したならば、現代の美学は「感性の交通の学」として特徴づけられると思います。 現代の美学のおもな仕事は、感性コミュニケーションについて反省し、伝達の媒体となる諸要素について理解を深めることではないでしょうか。 とはいえこれは新しい関心のようで、美学の歴史からすれば、新しくはない仕事です。 従来から美学は、芸術諸分野において鍵となる用語について考察してきましたし、作品の形象にそなわる伝達の働きについて考察してきました。 たしかに先人から学ぶことは多いので、思想史研究はなお大きな意味をもちます。 私たちは美学のもつ「感性の交通の学」の側面をもっと意識して、生き生きとしたコミュニケーションを生成するのに一定の役割をはたせるよう試行錯誤をおこないます。

    文系らしいデザイン美学のありかたを考えるなかで重要な仕事と思われたのは、デザインを論じるうえで鍵となってきた「美学用語」について反省することでした。 分野をまたがって使用される「美学用語」の意味を顧みることは、異なる分野の人間どうしが議論するうえで不可欠な作業であると考えます。 拙書『近代デザインの美学』では「構成」「形式」「様式」「空間」「表現」などについて論じましたが、現在はそれらに加えて、現代デザインの鍵用語についても考察しています。 たとえばそれは「環境」「社会」「地域」「持続」「包容」「参加」「批判」などです。社会系の用語が多くなりますが、今後それらはアートを論じるうえでも欠かせない点において、立派な「美学用語」になると思っています。