用語解説

批判デザイン

critical design

デザインにおいて重視されるのは役に立つ働きであり、デザインにおいて期待されるのは問題の解決だが、 目先の課題ばかりに気を取られると、既存の大きなシステムに巻き込まれたり、世間の考えに縛られて他の可能性が見えなかったりする。 批判デザインは、役に立つものを生み出すよりも、物による問いかけによって人々の反省をうながす試みである。 批判デザインは、問題の解決ではなく、問題の提起によって、公共の議論をかきたてる試みである。 クリティカル・デザインの語は、アンソニー・ダンが1990年代後半にもちいて広めたが、批判デザインそのものは以前からあった。

批判デザインには、現行の物質文化にたいする「批判」に重きをおく場合もあれば、未来の物質文化についての「思弁」に重くをおく場合もある。 批判デザインはいずれにせよ、批判の性格、思弁の性格、虚構の性格、芸術の性格、言説の性格、これらすベての性格をあわせもつ。 肯定の態度が、あるものをあるがままに受け入れるならば、批判の態度は、あるものをあるがままに受け入れない。

思弁の性格について。デザイナーの本分が、新たに何かを生み出す仕事であるかぎり、批判デザインは、現行の物質文化を批判するだけで満足しない。 批判デザインはさらに、未来の物質文化のさまざまな可能性を目に見えるようにして、社会・生活・身体・感覚・経験がいまのままではなく、他でもありうる可能性を示唆するところまでゆく。 ただしそれは直ちに実現できる提案ではなく、唯一の理想像でもないので、思弁の性格はおのずと実験の性格をともなう。批判デザインのうち思弁に力点をおくのが思弁デザインである。

虚構の性格について。批判デザインは、現実世界にたいする激しい抵抗によって、現実世界とは異なる世界を描こうとするので、仮想の性格だけでなく、虚構の性格もおびる。 批判デザインはむしろ虚構を手段として、非現実を紡ぎ出す。ただし、虚構の一部がもしかして可能なのではないかと思わせなければならない。 良い可能性=ユートピアが描かれるとはかぎらない。悪い可能性=ディストピアのほうが議論を巻き起こすのに向いている。

芸術の性格について。批判デザインは、役に立たないため芸術とみなされる。 それでもデザインだと言うのは、実用の可能性もしくは実現の可能性をわずかでも意識するからである。 批判デザインはまた、感覚を刺激するものを生みだす点でも、芸術とみなされる。 それでもデザインだと言うのは、消費生活における感覚のありかたを問い直すからである。 とはいえ、批判デザインのほとんどが、販売される製品でなく、展示される作品をねらっている。探求の成果はいまのところ、百貨店で問われるよりも、美術館で問われている。

言説の性格について。ダン&レイビーの批判デザインの考えはもともと製品デザインへの反省から生まれてきた。 多くの場合、物という手段をもちいて、現行の物のありかたを批判したり、未来の物のありかたを示唆したり、言語のように物に語らせる。 ただしそれは、皮肉だったり、滑稽だったり、比喩だったり、芸術らしい語りである。 デザイナーが生み出す物たちは、言葉を発するだけでなく、議論を巻き起さなければならない。従来のようにデザイナーだけが考えるのではなく、従順な消費者こそが考えるのである。