食のデザインとは何かと問うならば、美しい食品パッケージや、入念に作られた料理などを思い浮かべるかもしれない。
衣服のデザインは職業として知られ、住居のデザインも職業として認められているのに、食のデザインは何をする仕事なのか想像しにくい。
実際には、食にかかわるデザインの仕事はさまざまに展開されてきたが、食のデザインという名称のもとで仕事の全体をとらえようとする機運が高まったのは、近年の話である。
衣食住という生活の基礎をなす部分において、食のデザインへの自覚が出遅れているならば、不均衡をなくす必要がある。
食にかかわるデザイナーの仕事は、食のイメージ作りに始まった。一九世紀以降、商業美術家としてのデザイナーは、アールヌーボーであれ、アールデコであれ、時代の様式を取り入れて、イメージの力によって商品の魅力を引き立てた。
第二次大戦後は、デザイナーはCIの考えのもと企業のイメージ作りを意図するようになり、デザイナーの仕事は、広告の図案提供にとどまらなくなった。
CIの仕事はいまではブランディングとして継承されており、商業デザイナーの仕事の主要な部分をなしている。
けれども、現代社会において、食のデザインの仕事は、スタイリングに尽きるわけでなく、ブランディングに尽きるわけでなく、食にまつわる仕組み全体に責任を負うべき仕事とみるべきだろう。
すなわち、農業・食材・加工・食品・広告・流通・調理・提供・料理・食事・廃棄といった、人間の活動の連鎖について考える仕事であるか、少なくとも全体を意識しながら特定の問題を解決しようする仕事とみるべきである。
アートに接するデザインらしい仕事は、自由な実験精神のもと、一風変わった提案をしたり、意外な結びつきを仕掛けたり、全体がうまく回るように創意工夫を重ねる点にある。
食のデザインは以下の七つの部門に分かれる。① 仕組みのデザイン。幾つもの問題の絡み合いをとらえて、農業・食材・加工・食品・広告・流通・調理・提供・料理・食事・廃棄など、人間の活動の連鎖について考え直す。
② 食の出来事のデザイン。一期一会の食事の計画だけではなく、育てる場面もしくは食べる場面における食育の計画。
③ 食品のデザイン。環境に配慮した包装や、健康に配慮した食品や、日常の必要だけでなく非常の備えも考える。
④ 料理のデザイン。複数の感覚を刺激するとともに意味を伝えることのできる料理。
⑤ 食の空間のデザイン。調理・食事・販売・交流など、複数の機能をあわせもち、異なる人間どうしの出会いが可能となるような空間の計画。
⑥ 食の道具のデザイン。便利さを超えて、農への興味をかきたて、食への理解をうながす道具の発明。
⑦ 食の伝達のデザイン。広告宣伝だけでなく食の問題の理解のために有効な伝達のありかたを考える。
以上、食のデザインの七つの部門それぞれにおいて持続可能性が考慮されるべきだろうし、目先の課題にとらわれない、批判デザインと呼ばれる挑戦もなされてよい。