研究内容・方法

「ネットワーク型」と「実践プログラム型」の二つの研究を通して、相互補完的に展開します。

●内容

【研究1】「ネットワーク型研究」
 医療・看護・介護の専門職の実務者と一般市民との間を繋ぎながら、ケアを構想し向上させるケアの実践的共同研究を遂行する。2010年より教員と院生からなる「ケアの臨床哲学」研究会を設立し、神戸で医療・看護関係者を中心とした「患者のウェルリビングを考える会」と京都で介護・福祉関係者を中心とした「〈ケア〉を考える会」とを繋ぐ市民活動を大阪にて主催することで、京都・神戸・大阪という三都市を繋ぎながら、かつ、医療・看護と介護・福祉の現場を繋ぎながら、関西圏で「ケアと支え合い」の文化を育んできた。また、大阪市内空堀地区では、介護と看護を繋ぐコミュニティ・ケアを支えている「かいご・かんご塾」や「高齢者外出介助の会」に参加・協力し、大阪の中心地にあるコミュニティにおけるケアと支え合いの文化を育みつつ、そこから「高齢期の豊かな暮らし研究会」(朝日新聞厚生文化事業団呼びかけで始まった様々な分野の実務者の集まり)にも参加するようになっている。

【研究2】
 「実践プログラム型研究」「セルフケアのケア」の実践としての哲学対話・哲学相談(コンサルテーション)を、医療・福祉・教育などの現場において活用するため、国内外の実践例をも調査しながら、基礎理論と実践手法を確立する。地域の学校、福祉施設、病院を対象に2006年より試行して来た、哲学相談による組織コミュニティ・エンハンスメントの手法をもとに、教員と院生が組織や地域コミュニティのなかのさまざまな構成員・専門職とともに事業に参与しつつ、現場と人々を変革する実践的プログラムを開発する。これらの活動は、たんに専門的知識の提供や学術的助言にとどまるものではなく、実践的な対話によって組織や活動の担い手である各実務者の深いニーズを聴き取り、関与者全員のセルフケアの能力を高め、コミュニティ諸活動のエンパワーメント、パフォーマンスの改善、メンテナンスを目指すものである。

●方法

【研究1】については、科学研究補助費により国内外の異分野の研究者と行ってきた、「ケアの現象学」「北欧ケア」「欧州看取り」「ケアのシステム」「高齢者施設人材養成プログラム」などの共同研究からえられた国内外の学術的成果を、医師・看護師・介護士・社会福祉士などの専門職の実務者や一般市民との対話・交流のなかで浮かび上がって来る問題と照らし合わせながら、研究と現場とを相互に行き来しつつ学び合うという手法をとる。

【研究2】については、1.病院、2.学校、3.障害者福祉施設、4.多文化共生センターの4つの組織コミュニティと協働し、若手研究者が現場で協働するインターンシップモデルを確立し、実務者・関係者のセルフケアとコミュニティ形成の能力向上を目指したプログラム育成を図る。また、哲学プラクシスについての海外の動向や、米国の「こどものための哲学」や韓国・台湾の「人文治療学」の研究者と行なって来た学術交流をもとに、それらの学術的成果を国際水準で比較検討し、本事業の実践的活動に具体的な仕方で還元し活かす。

→「課題設定による先導的人文・社会科学研究推進事業(実社会対応プログラム)」については(日本学術振興会HPを参照)