第10回 定例研究会 (2012 / 09 / 21)


報告者: 大内 一

アストゥリアス国王の起源について  ― アストゥリアス王国諸年代記を中心に ―




 アストゥリアス王国諸年代記とは
     アルフォンソ3世治世期 ( 866 - 910 ) に編纂された3つの年代記
         アルベルダ年代記
         預言的年代記
         アルフォンソ3世年代記 ( ロダ版とオビエド版 )



 アストゥリアス年代記に関する主な先行研究参考文献.pdf
    《 編纂時期、作者、編纂場所、影響性、歴史学的価値に着目 》
      Barrau-Dihigo, L. ; “ Remarques sur la Chronique dite d'Alfonso III ”, Revue Hispanique, XLVI (1919),
                                       pp. 325 ss.
      García Villada, Z. ;  Crónica de Alfonso III, Madrid, 1918.
      Gómez-Moreno, M. ; “ Las primeras crónicas de la Reconquista ”, Boletín de la Real Academia de
                                          Historia
, C (1932), pp. 562 ss.
      Sánchez Albornoz, C. ;  Investigaciones sobre la historiografía hispana medieval (siglos VIII al XII),
                                             Buenos Aires, 1967.
      Menéndez Pidal, R. ; “ La historiografía hispana sobre Alfonso II ”, Estudios sobre la monarquía
                                          asturiana, Oviedo, 1949, pp. 3 ss.

    《研究成果の整理、通史、文化的背景》
      Díaz Díaz, M. C. ; “ Ls historiografía hispana desde la invasión árabe hasta el año 1000 ”,
                  Settimane di studio del Centro Italiano di studi sull’Alto Medievo, XVII, Spoleto, 1970,
                  pp. 325 ss.
      Sánchez Albornoz, C. ;  El Reino de Asturias: orígenes de la nación española : Estudios críticos sobre
                     la historia del Reino de Asturias, I, II, III, Oviedo, 1972, 74, 75.
      Gracía Toraño, P. ;  Historia de El Reino de Asturias, Oviedo, 1986.

    《経済、社会、制度的背景に着目》
      Barber, A. y Vigil, M. ;  Sobre los origenes sociales de la Reconquista, Barcelona, 1974.
                   ;  La formación del feudalismo en la Penínsura Ibérica, Barcelona, 1978.



1. アルベルダ年代記 ( 881 - 883 )
   ・作者不明
   ・イベリア半島の 「 歴史 」 の小記述の寄せ集め
   ・聖書の歴史叙述の多用 / 歴史的神意主義
   ・主なテーマ構成
       * 世界とイベリア半島に関する叙述 ( 川、地域、産物など )
       * 都市間の距離
       * 司教と司教座
       * 歴代ローマの王・皇帝リスト
       * 歴代ゴート王のリスト
       * 歴代アストゥリアス王
       * ナバラ諸王への言及
       * サラセン諸王
       * イベリア半島へのサラセン人の侵入
       * コルドバの諸王
           +
       * 預言的年代記
   ・ローマ、西ゴート王国との連続性を示唆?



2. 預言的年代記 ( 883?)
   ・Dulcidio の作か?
   ・アルベルダ年代記の末尾の叙述  
   ・旧約聖書のエゼキエルの預言をモチーフ
      ゴート人が 170 年後にアラブ人から自由を回復する
                ↓
      アルフォンソ3世によりイスラム教徒の支配から西ゴート王国が復活する
      半島の他のキリスト教勢力に対する覇権意識 



3. アルフォンソ3世年代記 ( ロダ版とオビエド版 )
   ・887 - 888 年頃の編纂
   ・アルフォンソ3世による編纂 / オビエドにて編纂
   ・アルベルダ年代記と同様の資料
   ・歴史的神意主義
   ・レケスビント王の死・ワンバ王の即位(672)からアルフォンソ3世の即位まで
       * ワンバ王 ( 672 - 680 ) の功績
       * エルビギオ王 ( 680 - 687 )、エギカ王 ( 687 - 702 )
       * ビティサ王 ( 702 - 710 ) の悪行
       * ロドリゴ王 ( 710 - 711 ) / アラブ人の侵入
       * ペラーヨ ( 718 - 737 )
          「 王 」 に選出 / コバドンガの戦い
       * ファビラ王 ( 737 - 379 )
          サンタ・クルス教会の建立 ( ロダ版 ) 
       * アルフォンソ1世
          ルゴ、トゥイ、ビセウ、アストルガ、レオン、アラバ、ビスカヤなどの占領 /
          ガリシア沿岸部、アラバ、ビスカヤ、アウソナなどの植民
       * フルエラ王
          ガリシア人とバスク人の鎮圧 / ガリシア地方の植民
       * アウレリオ、シロ、マウレガト、ベルムード1世   
       * アルフォンソ2世
          オビエド遷都 / 教会、国王館の建設 / ガリシアでアラブ人を撃破
       * ラミロ1世 / 伯ネポシアーノの反乱 / ナランコ宮の建築
       * オルドーニョ1世 / バスク人、アラバ人の反乱
       * アルフォンソ3世の即位

   ・新ゴート主義 neogoticismo の表出
       * イベリア半島におけるキリスト教統一王国を再建しようとする思潮
       * アストゥリアス王国を西ゴート王国の継承王国とする考え



4. アストゥリアス王国諸年代記にみる新ゴート主義関連記述
       *ペラーヨ ( 718 - 737 ) に関する叙述
          ・ベルムンドの子、トレドの王ロドリゴの甥 (ア)
           ビティサ王とロドリゴ王の衛兵 (ロ)
           王家の血筋のファビラの子 (オ)
          ・ビティサ王がペラーヨをトレドから追放 (ア)
          ・グアダレテの敗北を知り、コバドンガに避難 (ロ)
          ・険しいアウセバ山の岩穴で最初の抵抗を始める (ア)
          ・在地のアストゥリアス人により 「 王 」 に選出 (ア)
           アストゥリアス人を結集し、「 王 」 に選出 (ロ)
           ゴート貴族により 「 王 」 に選出 (オ)
          ・ヒホンの総督ムヌーサに対する反乱 (ロ)
          ・コバドンガの戦い (ロ・オ)
          ・ヒホン提督の逃亡、捕縛、死 (ロ)
          ・アストゥリアスにイスラム教徒の消滅 (オ)
          ・即位して19 年後にカンガスで他界 (オ)

       * アルフォンソ1世 ( 737 - 757 ) に関する記述
          ・カンタブリア公ペドロの子 (オ)
          ・コバドンガの戦いの後、カンガス・デ・オニスを訪問 (ロ)
          ・ペラーヨの娘エルメシンダの結婚 (ロ)
          ・ファビラ王の死に際して国王に選出 (ロ)
           フルエラから王国を 「 継承 」 (オ)
          ・ルゴ、トゥイ、オポルト、ブラガ、ビセウ、チャベス等の占領 (ロ・オ)
          ・在地のモサラベのアストゥリアスへの半強制移住 (ロ)
          ・アストゥリアス、カスティーリャ、ガリシアの海岸部の植民 (ロ)

       *  アルフォンソ2世期 ( 791 - 842 )
          ・ベルムード1世から譲位 (ア)
           ベルムードから継承 / 王として塗油された (ロ)
           国王に選出された (オ) 
          ・イスラム教徒のガリシア侵攻を撃退 (オ)
          ・オビエド遷都 (ア)(預)(ロ)
          ・アルフォンソ2世廃位・幽閉事件 (ア)
          ・西ゴートの宮廷制度の復興 (ア)(ロ)
          ・教会建立 (ア)(ロ)
            
       *  ラミロ1世 ( 842 - 850 )
          ・アルフォンソ2世をラミロが継承 (ロ)
           ベルムード王の子ラミロが王に選出 (オ)
          ・伯ネポシアーノの反乱 (ア)(預)(ロ)(オ)
          ・ノルマン人の侵入 (ア)(ロ)(オ)
          ・サンタ・マリア教会、サン・ミゲル宮の建設 (ア)(ロ)(オ)



5. アルフォンソ3世による年代記編纂活動
   ・アルフォンソ3世による年代記編纂活動の意味
          ・西ゴート王国との継承性 = 王朝の正統化の根拠
          ・半島内の覇権主義
               ↓
          ・ レコンキスタ理念の誕生
               コバドンガの戦い = レコンキスタの出発点、「 スペインの救済 」

   ・年代記編纂の時期的必然性に対する疑問
          ・なぜアルフォンソ2世期ではないのか?
               西ゴート宮廷制度の導入、伯の設置、教会再編、オビエド司教区の新設、
               西ゴート統一法典の導入、使徒サンティアゴの墳墓発見
      
   ・8-10世期のアストゥリアス王国の版図の拡大との関係
          ・ペラーヨ期
               ローマ、西ゴート時代からアストゥリアス独自の生活文化を守る強い傾向 = 抵抗運動
               コバドンガの戦いの性格 = イスラム教徒の支配に対する同様の抵抗
               西ゴート王国の継承意識なし ( 断絶性 )

          ・アルフォンソ1世期
               ドゥエロ川流域への遠征 / 地理的確認 /
                     ドゥエロ川流域の 「 無主地化 」 
               「 無主地 」 への農民による自発的な再植民活動=私的再植民

          ・アルフォンソ2世期
               ゴート主義の表明期 = 西ゴート王国の諸制度の導入 or 復活
               王朝の連続性の意識薄弱?
               王国版図はカンタブリア山脈を越えず

          ・オルドーニョ1世期
               ドゥエロ川流域への公的再植民 → ドゥエロ川流域への急激な版図の広がり
                  レオン、トゥイ、アストルガ、アマヤ、バルプエスタ等の再植民
               アストゥリアスの伝統外の地域 = ローマ・西ゴートの旧支配地の支配

          ・アルフォンソ3世期
               さらなる公的再植民 → さらなる版図の拡大
                  ポルト、ブラガ、サアグン、サモラ、トロ、ブルゴス、オカなどの再植民

   ・時期的必然性の説明となるか?
          ・ドゥエロ川流域支配のための法的根拠の必要性
               西ゴート王国の継承王国を主張 ( 継続性 )
          ・半島の他のキリスト教勢力に対する覇権を主張 ← パンプローナ王国の台頭を意識
               アストゥリアス王国の西ゴート王国の継承王国としての正統性
               レコンキスタ理念の創出



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