用語解説

複数の未来

futures

デザインは未来にかかわる仕事である。企業の利益を考える商業デザイナーは、市場の動向を見越して、製品サービスの開発をおこない、志の高い社会派デザイナーは、理想の状態にむけて、問題解決のしかたを考える。これにたいして、思弁デザインとよばれるデザインは、未来にたいして普通とは少し違った関心をもつ。思弁デザインは、未来予想のもとでは浮かび上がらない、思ってもみない可能性をとらえようとする仕事であり、良いか悪いかの判別すらもできない可能性を人々に突きつけて、公共の議論をうながそうとする。

未来について考える態度には三つある。今後何が起こるのかを予想しようとする態度、人間のあるべき理想を描き出そうとする態度、思いも寄らない可能性を見出そうとする態度である。以上の三つの態度に応じて、三種類の未来が区別される。予想の未来は、良いか悪いかはともかく、起こるであろう状態である。理想の未来は、実現する可能性はともかく、実現されるべき状態である。仮想の未来は、良いか悪いかはともかく、実現する可能性はともかく、思いもよらない可能をいう。立場が異なれば、態度も異なり、語られる未来もまた異なってくる。たとえば、デザイン活動をとっても、三つの行きかたがある。商業デザインは、予想の未来をたえず気にかけるだろうし、社会デザインは、理想の未来について思いめぐらすだろう。批判デザインとりわけ思弁デザインは、仮想の未来をこころみに提示する。仮想の未来は、良いか悪いか分からないないし、実現する見込みも分からないが、思弁デザインはこれを公共の議論にのせるために提示する。