思弁デザインは、批判デザインの一種というより、批判デザインの言い換えである。
思弁デザインは、未来の物質文化のさまざまな可能性を目に見えるようにして、
社会・生活・身体・感覚・経験がいまのままではなく、他でもありうる可能性を示唆しようとする。
思弁デザインは、崇高な理想をとなえる仕事ではなく、人々がものごとの他の可能性について考えるための手段をつくる仕事だといえる。
思弁デザインもまた、批評=批判の性格にもとづき、実験の性格、仮想の性格、虚構の性格、芸術の性格、言説の性格、すべてを満たしているだろう。
ダン&レイビーは、1990年代半ばからクリティカル・デザインの語を広めたが、説明では思弁=スペキュレーションの語もよく使っていた。
ダン&レイビーの2013年の著書『スペキュレイティヴ・エヴリシング』では、
二人はすでに、スペキュレイティヴ・デザインの語に重きをおき、こちらの語によって自分たちの考えを表明している。
この本からは、クリティカルの語のもつ否定のニュアンスを解消して、未来に向けて前向きな仕事をしようという意思を感じる。
本解説では、クリティカル・デザインを批判デザインと訳し、スペキュレイティヴ・デザインを思弁デザインと訳している。
ダン&レイビーの提案するスペキュレイティヴなデザインは、スペキュレーションの語のさまざまな意味をくんでいるが、
哲学の意味の強さからも思弁と訳してもよいだろう。
思弁デザインは、問題解決という実践の要請から解き放たれて、
自由な状態において物事への洞察を深めて、人間の生きかたなどの新たな可能性を提示しようとする。
ダン&レイビーはたしかに科学者と共同作業をおこない、経験データを用いるが、それはあくまで、
仮説を立てるための着想の源であり、推論を支える証拠として使われる。
思弁デザインは、投機の点については、将来の儲けを企図するわけでないが、未来について思案するところで語の意味に重なる。