イベント等報告

【報告】安彦講平氏特別講演「“癒し”と“アート”」

(報告者:文学部人文学科倫理学専攻 杉本光衣)
 先日、2014年1月8日(水)に安彦講平さんをお迎えし、お話を聞く「“アート”と“癒し”」をテーマにした講演会が開催されました。場所は大阪大学豊中キャンパスのオレンジショップです。50人程度の方にお越しいただき会場がいっぱいになりました。臨床哲学研究室の院生・学生だけでなく、学内他部局の方や一般の方など様々な方が来てくださり、安彦さんへの質問も様々な角度からのものであったように思います。
 初めに安彦さんからお話をいただき、その後は安彦先生の活動をまとめた映像を鑑賞し、質問を経ての、ディスカッションのセッション、というふうに会は進行しました。そのお話の中からいくつかの内容を紹介させていただきます。

 1つ目はアートに対する安彦さんの態度です。人が物質的に満足してもなお、満たされない部分があり、そういった感性によってアートは必要とされるものである、と安彦さんはおっしゃっていました。つまり、どれほど人が経済的に発達しようともアートは続いていくというような意味でしょうか。2つ目は他者の必要性です。絵を1人で描いても“癒し”にはなりません。他人に見守ってもらうことで自分の問題に関連した絵を描けるようになる、と安彦さんはおっしゃっていました。3つ目は“場”の重要性です。アトリエでならばご自身の様々な問題が気にならないという人もいます。また、アトリエに通っている方の気がどうしても高ぶったときに、「鎮守の森」に行き落ち着きを取り戻すこともある、というエピソードがありました。それもある種の“場”の話ではないかと思えます。この“場”に関しては様々な角度からのアプローチができそうですが、私自身はこの“場”というものは、精神障がいを抱える方にとって非日常であり、安心して“子ども”の役割を果たせる場所なのではないかと考えています。

 私自身が、今回会を準備する際に特に注目していたのは、2つ目の他人の必要性や自分の問題に向き合うことでしたが、実際にお話しをうかがってみると1つ目のアートに対する態度ですとか、3つ目の“場”を作ることに関しても同じくらい重要なものであると感じました。精神障がいと共生する方々と社会が交わるためには、そのような要素が複合的に交じり合っているように思えます。「日常から離れられる“場”があり、活動によって他人と交わることができ、活動者が活動に意味を見出していること」が、自分の問題と向き合う手助けをしてくれている。もちろんこれ以外にも様々な要素や要因があり、あのアトリエが成り立っているのだろうということは想像に難くないですが、今回はこのようにアトリエを取り巻く要因を少し知ることができました。