「阪大東洋史」とは

 歴史学の根本にあるのは、過去から受け継がれた史料に向き合うという作業です。私たちは、いま自分たちが直面している問題から出発して、歴史のなかに現在と共通する問題を見て取ることができます。そのいっぽうで、過去に存在した諸社会の価値体系に触れ、自分たちとは異質な世界の内在的理解に努めることにより、現代的な価値観を相対化することもできるのです。歴史学はつねに過去と現在との往還のなかで営まれる、極めてアクチュアルな学問だといえます。

 アジアに暮らすわたしたちにとって、アジアの歴史について知ることが重要であることは言をまちません。過去において、日本は他のアジア諸国から多大な影響を受けると同時に、自らも正負の両面でアジアに巨大な影響を与えてきました。こうした相互関係は、現代においてますます緊密なものとなっています。これに加え、アジアは世界史全体において最も重要な位置を占める地域であり、その探究に一地域を超えた普遍的意義があることは、多くの人が認めるところです。

 近代日本は、江戸期以来の漢学、清朝考証学、さらに西洋式の実証歴史学を土台にして、東洋史という独自の研究分野を生み出しました。日本の東洋史学は、戦前においては植民地主義という重大な制約を帯びながらも、世界に誇りうる業績を生み出しました。その蓄積は戦後において様々な形で継承され、現在の東洋史学の発展につながっています。

 私たち大阪大学東洋史研究室は、東洋史の含む広大な研究領域において、唐宋以後の中国史、イスラム化以前の中央アジア史、そして東南アジア・海域アジア史を中心に教育・研究を進めています。いずれの領域においても、緻密な文献の読解と現地でのフィールド調査を組み合わせ、画期的な業績を生み出し続けています。またグローバルヒストリー研究や世界史教育など、学際的な取り組みでも大きな成果をあげてきました。みなさんも是非、私たちと一緒に東洋史という豊饒な世界の知的探検に参加しませんか。