用語解説

空間デザイン

space design

欧米の都市では、19世紀から鉄の工業使用がすすみ、生活の場はしだいに重々しい壁から解放される。それとともに20世紀の近代デザイン運動では、目に見える部分だけでなく、物の不在としての空間それ自体をかたちづくる関心が育まれる。近代デザインにおいて空間はしばしば強調されてきた語の一つだった。たしかに日本の古い木造建築をみると、物量感がもとから欠落しており、開かれた空間がすでに実現されていたかにみえる。とはいえ日本でも、空間の語をもちいた議論が盛んになるのは、1920年代に欧米から近代デザインの考えが持ち込まれて以降である。

20世紀の哲学のうち現象学などでは、自然科学で想定されてきた均質な抽象空間にたいして、人間の実感にもとづく個々の具体空間についての考察がなされた。すなわち、客観的空間、科学的空間、数学的空間、幾何的空間、物理的空間とは区別されるべき、体験される空間をあきらかにする試みである。後者について問われたのは、身体との関係であり、知覚との関係であり、気分との関係だった。この空間は、身体との関係からすると、自己の周りの広がりである。横になった姿勢と、座っている姿勢と、立っている姿勢とでは、開示される空間もまた異なる。空間の知覚はまた複数の感覚器官の同調によるにしても、視空間・触空間・聴空間・嗅空間をそれぞれ区別できるだろう。体験される空間はまた一定の気分と結びついている。空間の現れは人間の気分に左右されるが、空間の現れが人間の気分を左右してもいる。

空間デザインが実現するのは、人間の実感にもとづく個々の具体空間である。その仕事は、身の回りから都市環境にまで連なるが、三つの基本要素をもちいる。すなわちそれは、上方を閉ざす屋根であり、側面を閉ざす壁体であり、下方を閉ざす床面である。相合い傘はそのもとに二人だけの空間をつくりだす。選手たちが円陣を組むとき内側には親密な空間が生まれる。花見の場所取りのために敷物をひいたところは誰も立ち入れない空間となる。

空間デザインは、三つの基本要素をもちいて、六つの基本操作によって進められる。① 空間の閉鎖:屋根はとくに上方を覆いながら閉じる要素であり、壁面はとくに側面を囲いながら閉じる要素であり、床面はとくに下方を塞ぎながら閉じる要素である。空間を閉ざす意味は、外界からの影響を遮るためであり、活動を制約するためであり、内側のものを見せないためでもある。② 空間の分割:強い分割は、向こうを見えなくしたり、向こうへの移動を妨げたりするが、弱い分割は、向こうを見えたままにしたり、向こうへの移動を許したりする。空間を分ける意味は、単調さを避けたり、機能を区別したりするためである。③ 空間の開放:窓などの開口部について、大小・形状・位置への配慮があるだろうし、光のみを透かしている場合から、何もなく空いている場合まで、開けかたの度合いもある。空間を開ける意味は、通気採光のためであり、見通しの改善のためであり、移動の利便のためである。④ 空間の連結:道とは二つの空間をつなぐ手段であり、橋はとくに障害をまたいで二つの空間をつなぐ手段である。空間をつなぐ意味は、移動を可能にすること、移動を容易にすること、移動を方向づけることにある。⑤ 空間の充実:個々の空間に独自の質を加えるために、採光・照明・音響について配慮したり、壁面の処理として、素材・色彩・装飾によって違いを出したり、家具などを置いて周囲の空間をかたちづくったりする。⑥ 空間の構成:諸要素を一つにまとめ、諸空間を一つにまとめ、空間全体に秩序をあたえる。空間を整える意味は、美しく見せたり、一体感をもたせたり、移動を容易にしたり、位置を把握しやすくするためである。人間はかならずしも単純な秩序を望まない。空間秩序の複雑さは、空間の懐の深さであり、魅力をもたらす。