卒論Q&A

このページでは、論文を書く上で知っておくと便利だろうと思われる様々な情報を紹介しています。どのような論文を書けばいいのか、という内容に関することについては、もちろん一人ひとりが考えるしかないのですが、ワープロソフトの使い方や、印刷するときの書式などについては、教えてもらったほうが良いことが多いでしょう。その中でも、自分自身が論文を書く上で困ったことや、研究室の後輩からよく質問を受けたことを、ここで解説したいと思います。

目次

内容

フランス語の打ち方

Q.アクセント記号って、どうやって入力するの?

A.普通、Windowsのキーボード設定は「日本語」になっています。画面の右下に「JP」って表示がありますよね。



フランス語入力用のキーボード配列に変更するには、画面左下の「スタート」から「コントロールパネル」を開き、「地域と言語のオプション」を選択、「言語」の中の「詳細」ボタンをクリックします。「テキストサービスと入力言語」というウィンドウが開くので、そこから「追加」ボタンを選ぶと、さらに「入力言語の追加」というウィンドウが開くので、「フランス語(フランス)」もしくは「フランス語(カナダ)」のどちらかを選択し「OK」をクリック。長かったですね。でもまだ終わりじゃありません。最後に「適用」をクリックすることを忘れずに。

日本語とフランス語とを切り替えるには、キーボード左側の「Alt」キーと「Shift」キーとを同時押しします。ほらっ、表示が変わったでしょう?



それでキーボードがどのように変更されたかは・・・。説明するのが大変なので、ここは「京都外国語大学」のホームページにリンクを張っておきましょう。フランス語版のキーボードをきれいな画像で説明しています。

フランス語(フランス)

フランス語(カナダ)



Q.フランス語(フランス)とフランス語(カナダ)って2つあるけど、どっちを選べばいいの?

A.それぞれ一長一短ですね。我々日本人にとって使いやすいのは間違いなくカナダ版です。英語のキー配列とほとんど変わらないので。でもフランスで使われているのは勿論フランス版。留学したり、旅行中にネットカフェに立ち寄ったりするときは、こちらのキー配列を使うことになります。留学や旅行を考えている人は、フランス版に慣れておいたほうがいいかも。


題目について

Q.題目はどうやってつけたらいいの?

A.特に規定はありませんが、簡潔な題名にすることを心がけましょう。例えば僕の卒論は「『悪の花』における時間」だったのですが、「深淵と時間」という副題を付けようとしていました。でも短い文章の中に二度も「時間」という言葉を使っているのは不細工ですね。先生に相談してみると、それは「トートロジー(同義語反復)」やろ!と即座にツッコミを入れられてしまいました。同じ単語でなくても、「融合」と「交じり合う」のような類義語ももちろん使わないようにしましょう。


Q.題目はいつまでに決めればいいの?

A.卒業論文の提出は1月初めですが、題目の提出はそれよりも2ヶ月以上前の、10月終わりごろになっています。フランス文学研究室での卒業論文中間発表は、だいたい11月半ばなので、その準備をちゃんとしてれば10月終わりには題目も決められるでしょう。題目は教務窓口に提出しますが、提出の前に先生にチェックしていただいて、ハンコを頂く必要があります。


Q.題目って変更できますか?

A.これまでは、題目提出締め切りの後の1ヶ月間に限って変更の届出が許されています。それ以降はぜったい変更できません。


引用について

Q.引用って?

A.形式で分けると引用には2つの種類があります。「本文中の引用」と「独立引用」ですね。

まずは「本文中の引用」について説明します。本文中の引用は「」(括弧)で囲んであげましょう。例えば、

     ボードレールが「フランス語の魔術師」と称えたゴーチエは・・・

というような短い引用でも「」で囲んであげるのが普通ですし、もちろん他の研究者の指摘なども、

     この問題に関して○○氏は「・・・・・・・・」と述べているが・・・

というように必ず「」で囲んであげましょう。そうしないと自分の言葉と、他の人の言葉とが区別できなくなりますからね。

次に「独立引用」です。「本文中の引用」を説明した、さっきの2つの文がちょうど独立引用の形になっていますね。独立引用には「」は要りません。しかし、本文ではないことを分かりやすくするために、本文との間を上下それぞれ1行あけて、文章の左端を少し右側に寄せてあげましょう。Wordを使っているならば、次のようにしてみましょう。



2文字から4文字ぶんくらい引用全体を右側にずらしましょう。他にも「スタイル」を「標準」から「本文インデント」に変更する方法などもあります。または自分で新しいスタイルを設定することも出来ます。研究してみてください。

それから、独立引用だけ文字の大きさを若干小さくしてもいいでしょう。本文が12ポイントくらいなら、引用は10,5ポイントとかね。

引用には必ず注を付けて、その引用がどこから引いてきたものなのか、読み手に分かるようにしておきましょう。たまに関心を持った引用の文章に、作品名しか典拠が示されていないと、やたらと時間を費やして何十ページもの文章の中から引用の文章を探し出さねばならず、イライラしてしまいます。是非とも読み手に親切な論文を書きましょう。注の付け方は別項目で説明しています。

注について

Q.注って、どうして必要なんですか?

A.まず、書誌情報に関する「注」について説明しましょう。例えば、あなたがある本から引用をしたとします。その引用が本の中の何ページにあるのか、その本の著者が誰なのか、いつ、どこで出版されたものなのか。こういったことをあなたがちゃんと記しておいたなら、あなたの論文を読んだ人は、すぐに自分で引用を確認することが出来ます。そうやって、あなたの論文を読んだ人は、関連のある他の参考文献をどんどん読んでいくことが出来るわけです。

でも、そういった書誌情報を本文の中にいちいち書き込んでいたら、しょっちゅう本文が中断されてしまって、かえって論文が読みにくくなってしまいますね。そこで、書誌情報のようなものは、本文とは別の箇所に「注」としてまとめて記しておくことにするわけです。


Q.注の書き方が分かりません・・・。どうやって書くの?

A.書誌情報の注については、ガリアのホームページでの説明を見てください。
Web Galliaを見る。


Q.書誌情報以外の「注」の役割って?

A. 「注」にはもう一つ、重要な役割があります。単に書誌情報を記すだけでなく、自分の論文の流れを整理して分かりやすくするために、「注」はとても役に立つのです。
 論文を書いていると、どうしても書いておきたいのだけど、論の展開にはあまり関係なく、書いてしまうと全体の流れが不明瞭になってしまう、というような事柄が出てきてしまうものです。でも書きたい!それに、おそらく書き手が面白いと感じている事柄なら、読み手も同じように面白いと感じてくれるはず。そう思う時ってよくあります。こういう、いわゆる「わき道」、「脱線」を記しておくことが出来るのが「注」のスペースなのです。「注」を上手く活用すれば、理路整然としたシャープな本文と、多様な発展の可能性を残した豊かな「注」の並存によって、本来対立するはずの「集中」と「拡散」の2つのベクトルを同時に含んだ、読み応えのある論文を書くことも出来るわけです。


Q.固有名詞の説明なども「注」に記せばよいのでしょうか?

A.うーん、難しいところですね。場合によっては記したほうがよいときもあります。でも、結論から言うと、固有名詞の説明だけを記すというならば、たいていの場合必要ないでしょう。
 例えとして僕の専門のボードレールで考えて見ます。
 ボードレールの論文を書いているときに、本文の中で「アスリノー」という人に触れたとします。「アスリノー」はボードレールと比べると知名度も高くないけれど、もしかすると論文を読んでいる人が「アスリノー」とは誰なのか気にするかもしれません。そこで、本文の「アスリノー」の右上に番号を付けて、ページ下の「注」に、
 
 「シャルル・アスリノー。1820~1874。『二重の生活』などの著作を残した作家。ボードレールの友人として、詩人の伝記を記す。また、詩人の死後、テオドール・バンビィルとともに『悪の花』の第3版を編集する。」
 
 と書いておいたとしましょう。書いた本人としては、自分の知っていたことや頑張って調べたことを書けたのだから、満足するかもしれませんが、はたしてこの情報は本当に読み手に伝えるべきことだったのでしょうか?
 本文の中でのアスリノーの扱いが、たいして高くないのであれば、本文の中で「ボードレールの友人であるアスリノーが・・・」というふうに書いてしまえば十分でしょうし、もしもアスリノーが『悪の花』第3版の編集に携わっていることが重要なら、その事実は「注」ではなく「本文」の中で説明しておくべきでしょう。どちらにしろ、上記のような注は必要ではありませんね。
 それに、もしも読み手の一人が「アスリノー」について細かく調べたくなったとしても、あなたが辞書で調べた程度の情報であれば、だれでもすぐに調べることが出来ます。特に卒業論文の読み手ともなれば(つまり先生方ですね)、それくらいの情報は調べるまでもなくご存知のことも多いでしょう。
 
 結局、「脱線」を書けばいいといっても、その「脱線」もまた、あなた自身が考えた論でなければ、読み手にとって面白いものにはならないのです。同じように、「注」の中で他の研究者の文章を紹介するときも、ただ他人の文章を引用して終わるのではなく、「○○氏の以下の文章のような見方をすることも出来るだろう」というように、ごく短いものでも、あなた自身の考えがそこに加わっているほうが、読み手に親切な論文なのではないでしょうか。



目次について

Q.目次を作ろうとしても、きれいに出来ません!どうやったら「・・・・・」とかバランスよく出来るんですか?

A.Wordには目次を作る機能が付いています。それを使えば簡単ですよ。



この「索引と目次」というのを選択すると、つぎのウインドウが開きます。



「目次」の項目にして、「OK」を押せば、目次が挿入されます。

でも、目次の項目を設定していないと、何も表示されません。前もって、目次にしたい項目の「書式」を「標準」から「見出し1」とか「見出し2」とかに変更してあげないといけません。



もしも選択肢の中に、「見出し」が見当たらなかったら、「その他」を選択しましょう。右側に「スタイルと書式」の作業ウインドウが開くので、一番下の「表示」を「全てのスタイル」に変更して、「見出し」の項目を表示させましょう。


参考文献一覧について

Q.参考文献一覧って、どうしているんですか?書誌情報ならちゃんと引用の注の中で紹介したんですけど・・・。わざわざ繰り返さなくってもいいんじゃないですか?

A.理想を言えば、参考文献一覧というのは論文を執筆する上で、まず初めに作らなければならないものなのです。学問において、先行研究がまったくないと言う分野はほとんど存在しません。これまでに行われてきた他の人たちの研究の中で、自分の研究がどのような系列に属しているのかを明らかにするため、参考文献一覧が必要なのです。

それに、先行研究というのも、言ってしまえば研究の対象の中に含まれているので、自分の研究対象がどの範囲にまで広がっているのかを明らかにする必要があるでしょう。家を建てる前に、敷地を囲って置くようなものです。

もちろん、これは「理想を言えば」の話です。実際、卒論の段階で、先行研究を全て把握するなんてことはなかなか出来ることではありません。しかし、卒論を書く前に自分が知っている参考文献をリストにしておくのは有益な作業でしょう。忘れかけていた研究書を思い出せたりするかもしれないし、リストがあれば論文を書いているときに、「あの研究書に書いてあったことに触れておこう」と思いついたりしやすいでしょうしね。


過去の卒業論文・修士論文の傾向

 大阪大学フランス文学研究室では、2006年現在までに、400本近くの卒業論文と、100本以上の修士論文とが書かれて来ました。これから論文を書こうとしている方々にとって、今までにどんな論文が書かれたのかという問題は、とても気になることだと思います。僕自身、卒論を書く前には、先輩方の卒業論文を読み漁り、今回も修士論文執筆のために、先輩方の修士論文を読み漁ったのでした。その論文のほとんどが、研究室のある場所で大切に保管されています。読んでみたいと思う人は、助手さんにお願いして保管場所を教えてもらいましょう。
 それらの論文の一本一本について紹介することは出来ませんが、ここでは、これまでの50年以上の歴史の中で、卒業論文、修士論文の対象となった作家・作品にどのような傾向があったのか、簡単にご紹介したいと思います。
 しかし、いくら簡単にといっても、500本もの論文となると、なかなかたいへんな作業です。幸いなことに、今から5年前、当研究室の和田先生が分析を行い、その結果をまとめてくださったものが2000年度発行のガリア第40号に収録されていますので、その「先行研究」をもとに、その後の5年間のデータを付け加えたものを紹介しましょう。
 フランス文学といえば、古くは『ロランの歌』や『狐物語』のような11・12世紀の作品から、プルーストやカミュのような20世紀の作家まで(もちろん今日という21世紀においてもフランス文学は新しい作品を生み出し続けているのですが、当研究室の卒論・修論では21世紀文学はまだ扱われていません・・・)、その名作の数々は、幅広い年代にわたっています。この研究室でははたしてどの世紀が最も人気なのでしょうか?信仰と神秘の中世文学?ルネッサンスの16世紀?古典演劇の17世紀?思想の時代18世紀?数々の小説が咲き誇った19世紀?それともやっぱり一番身近な20世紀?気になる結果をついに公開!まずは卒業論文の傾向から見てみましょう・・・。

卒業論文において対象となった世紀(縦軸は論文数を示す)


多いのは圧倒的に19世紀と20世紀。今日の我々にとって最も親しみやすいジャンルである「小説」が確立したのは19世紀のことですし、翻訳されていて、気軽に読むことの出来るフランス文学というと、やはり19世紀・20世紀の小説が中心となるでしょう。上のグラフは、そのような状況が反映された分布であると考えられるのではないでしょうか。
 ついでに、人気のある作家名と、その卒論を書いた人数とを挙げてみましょう。ます19世紀。

フロベール(22人)
スタンダール(17人)
ボードレール(15人)
ランボー(14人)
モーパッサン(11人)
バルザック(10人)
メリメ(10人)
ジョルジュ・サンド(8人)

フロベールがだんとつです。しかし、ボードレールやランボーといった詩人も負けてはいません。次に20世紀です。

カミュ(21人)
ジッド(15人)
モーリヤック(10人)
ラディゲ(10人)
サン=テクジュペリ(8人)
プルースト(8人)
マルタン・デュ・ガール(8人)

カミュ、ジッドが3位以下を突き放しています。確かに、この2人の作家の作品は、文庫でも翻訳が広く出回っていますし、『異邦人』、『狭き門』など短いけれども名作として残っている作品があるので親しみが持てる作家なのでしょう。ラディゲやサン=テグジュペリも同じような傾向があると思われます。しかし、プルーストとマルタン・デュ・ガールといえば、ともに『失われたときを求めて』と『チボー家の人々』というとんでもない長さの作品を残した作家です。残念なことに、最近は長い作品はちょっと・・・という人が少なくありませんが、かつては大作に挑戦しようとした学生も多かったのですね。

 それでは次に、修士論文の傾向を見てみましょう・・・。

修士論文において対象となった世紀(縦軸は論文数を示す)


卒業論文と同じように、19世紀・20世紀の人気は群を抜いて高いですね。しかし、17世紀の割合もそこそこ高いです。大阪大学のフランス文学研究といえば、かつては和田誠三郎先生を中心としたパスカル研究で世界に名を馳せたものですから、修士課程の学生のなかで17世紀を研究した人が多いのも肯けるでしょう。卒業論文と同じように、人気のあった作家が誰なのか確認してみましょう。

フロベール(8人)
ボードレール(7人)
プルースト(6人)
ラシーヌ(5人)
パスカル(4人)
バルザック(4人)
ヴァレリー(4人)
ランボー(4人)

卒業論文で人気のあった、カミュ、ジッド、スタンダールが上位から姿を消しています。代わって現れたのが、ラシーヌ、パスカル、バルザック、ヴァレリー。どれも知名度は高いけれど、一筋縄ではいかない作家ばかりです。学部の段階では、読みこそすれ、なかなか研究の対象とはしがたいような作家たちも、修士課程でじっくり腰をすえて取り組む相手としては相応しいということでしょうか。

 さてさて、以上のような結果が出たのですが、この大阪大学フランス文学研究室も設立してから55年以上の歴史があり、学生が選ぶ作家にも、その時代によって異なった特色があるかもしれません。そこで次に、講座の開設以来の半世紀を幾つかの年代に分けて、その年代ごとに各世紀の人気を調べてみましょう・・・。まずは卒業論文。

卒業論文において対象となった世紀(縦軸は各年代での割合を示す)


50年代・60年代には17世紀研究が多かったけれども、その後は19世紀・20世紀に押されて苦戦しています。80年代には19世紀・20世紀がついには約95%を占めてしまうのですが、90年代になるとその他の世紀が再び盛り返してきます。2000年以降のデータは、まだ5年分なのでこれからどうなるのかまだ予測が付きませんね。続いて、修士論文の傾向・・・。

修士論文において対象となった世紀(縦軸は各年代での割合を示す)


ガリア40号(2000年)の中で、和田先生は、修士論文の年代ごとの分析に際し、卒業論文のように10年ごとに区切るのではなく、傾向に変化の見られる時期で1954年から1999年までを3つの期間に区切っています。ここでも、その分割を採用し、さらに2000年から2005年までのデータを右端に付け加えて置きました。卒業論文以上に、17世紀の人気の変化が明らかに現れています。面白いことに、1987年から1999年には20世紀文学が人気を博していたのに、2000年以降になると再び19世紀が人気を取り戻しています。はたしてこれは何故なのか?卒業論文と比べると、修士論文は提出数自体が少ないので、統計から分析を行うのに十分な母数が得られているとはいえません。ですから、ここから世代ごとの変化を導き出すのは難しいというのが事実でしょう。
 この大阪大学フランス文学研究室で、これからどのような論文が書かれていくのか?どのような傾向が新たに生まれていくのか?それはまったく予測不可能なことです。ただ少なくとも、これから出される卒論・修論の一つ一つが、この研究室の伝統に新しい歴史として付け加わり、いつまでも大切に受け継がれていくことでしょう。終。