このページではオーストラリアの歴史の全体的流れを紹介します。もっと詳しく知りたい人は、藤川隆男編『オーストラリアの歴史』(有斐閣、2004年)や藤川隆男著『猫に紅茶を―生活に刻まれたオーストラリアの歴史』(大阪大学出版会、2007年)を参照してください。
プロローグ
以下に書かれているのは、藤川が書いた『猫に紅茶を』への導入です。『猫に紅茶を』は、タイトルもそうですが、歴史を少し斜めから切り取った、プロの歴史ガイドによる未来の読者に向けた本です。できれば、購入してください。面白い本だと思うのですが、タイトルが少し奇抜すぎて、売れ行きがかんばしくありません。それに対して、ここで紹介する「オーストラリア小史」は、大阪大学の学生による、直球の歴史です。歴史を短く、コンパクトな言葉でまとめた解説。それが「オーストラリア小史」です。オーストラリアの勉強を始めた皆さんの参考に用意しました。まだ、未完成ですが、順次、完成に向けてすすんで行きたいと思います。
『猫に紅茶を』の導入 。
現在の瞬間にあって、歴史は思い出されることで意味を持ちます。戦争の記憶、国家の歴史、家族の歴史などはそういう例です。思い出すことは、記憶しなおし、記録しなおすことです。このようにして、歴史は常に再生産され、新たな意味を与えられています。現在の関心が歴史の形を決めるのです。戦争の記憶ついて言えば、在日韓国・朝鮮人の人々の記憶と右翼的な日本人の記憶には大きなずれがあります。人々が過去や歴史に意識的に立ち向かうとき、現在の影が色濃く反映されるのです。
しかし、歴史には他の側面もあります。人々が全く意識もしなければ、記録しようとさえしない歴史があります。それは、日常生活に深く刻み込まれた過去の習慣や伝統です。オーストラリアの人々が、これこそがオーストラリアだと外国人(他者)に意識的に示す歴史や文化と、私たち非オーストラリア人が経験する異文化には、かなりの違いがあります。それは時に根本的に異なっているかもしれません。異なる国の歴史を知るおもしろさは、意識され、構築された歴史と、深層によどむ歴史の水脈の段差やずれにあるように思います。
私たちは、オーストラリア歴史の地下水脈と、表層の歴史との段差やずれを見ていきます。普通の歴史のように、物語は大体時代を下って進みますが、個々の事項はほとんどが現在に直結しています。百年前の過去も二百年前の過去も、現在の日常生活にとっては同じです。歴史学は、それを整然と秩序づけますが、意識されない日常生活では、過去の歴史は混沌となって現在を規定しています。そのような過去を、これから見るのです。
オーストラリアは古くて、新しい国です。先住民を考えれば、地球上で最も古い文化が大きく変化せずに最近まで存続し続けた国です。他方、ヨーロッパによる植民を指標とすれば、オーストラリアは最後の新大陸、歴史のない国とさえ言われます。また、近代民主主義や連邦制度を考えれば、十分な歴史的経験をつんだ国と言えるでしょう。オーストラリアのいろいろ側面に、様々な角度からアプローチするのが私のやりかたです。
私は歴史家というよりも、過去の世界へのガイドだと思っています。現在の状況の扉を開いて、その扉から過去の世界の一部を、読者の皆さんには見ていただきたいと思っています。それで、おもしろいなと思ってもらえれば、それが私の最高の喜びです。
著者の藤川は、『オーストラリアの歴史』付属のCD-ROMに収録されている「オーストラリア用語辞書」および「オーストラリア年表」の更新ファイルを配布しています。以下のリンクからファイルをダウンロードしてご利用ください。(※更新作業はオンライン版『オーストラリア辞典』が優先的に行われますので、最近の内容については、そちらをご確認ください。)
bun45.zip (2004年6月22日版、3.46MB)
更新ファイルはZIP形式で圧縮されています。ZIP形式に対応したアーカイバで解凍してご利用ください。(※ 解凍する際にはパスワードが必要です。『オーストラリアの歴史』262ページの最初の6文字を入力してください。)解凍後に作成されるファイルは、
の3つです。辞書と年表の両方を参照される場合は、これらのファイルを同一のディレクトリに置いた上で、bun45.chmを開いてください。更新ファイルの動作環境は付属CD-ROMに準じますが、更新ファイルの起動には付属CD-ROMは必要ありません。