第15章 宣教師たちの諸相
−キリスト教布教の現場に見る白人性−

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要約

19世紀後半から20世紀前半は、キリスト教宣教師たちがキリスト教勢力拡大のためにヨーロッパの外へと向かった時代でもあった。キリスト教は普遍的な宗教ではあるが、一方で「ヨーロッパ的な」価値観を表現するものだとも言える。このような「ヨーロッパ的」価値観を表現するキリスト教は、白人性とどのように関係していたのだろうか。

筆者は、イギリスの伝道協会の活動に焦点を当てる。イギリス国教会伝道協会の年次報告および宣教師名簿は、ミッション活動の開始以来スタッフを細かく区分してきた。そのようなスタッフの分類方法の変化とその背景を考察することにより、ミッション活動における「白人性」がどのような意味をもっていたかを検討していく。

ミッション活動は、キリスト教を基盤とした社会の構築という普遍的な目標をもっていた。しかし、活動にたずさわる人々は、ヨーロッパ人かそれ以外かで一貫して区分されてきた。ただし、19世紀後半までは普遍性が重視され、聖職者であるのか、非聖職者であるのかが分類の大前提であり、宣教師がヨーロッパ人であるか現地人であるか、の区別はされていなかった。ところが、年代が進むにつれ、現地人がヨーロッパ人=白人と区別されるようになり、白人でもなく現地人でもない人々の中でも白人の血を引く者は区別されるようになっていく。筆者によれば、このような白人と現地人の中間層の人々の位置づけの変化は、白人性意識を反映したものである。

他方でもう一つの伝道協会の姿勢として筆者は、「家族」の重視、妻、母としての女性の役割の重視を挙げている。伝道協会の宣教師名簿は、ヨーロッパ人スタッフの結婚履歴を細かく把握するようになる。このような姿勢が顕著になったのは、教会がミッション活動にかかわるスタッフの「白人性」の維持をより強く意識するようになったことをうかがわせる。

伝道教会がその普及に努力したキリスト教と文明化は、普遍的な価値を持つものであるが、実際はヨーロッパ的な価値観やライフスタイルを非ヨーロッパ世界に移植するものであった。世紀末には「文明化」の名のもとに教育などの非宗教的な活動が拡大していくのと同時に、ミッション活動における「白人性」の持つ意味はますます重要性を持つことになったと筆者は指摘している。

用語解説

感想

筆者は、伝道協会の年次報告や宣教師名簿といった統計から、「ヨーロッパ的なもの」としてのキリスト教の姿、そこから見えてくる「白人性」意識を見事に描き出している。一見して事務的な統計であっても、それを行う人々の意図から、大きな価値観が見えてくることもあるのだ、ということに気づかされる。

コメント 混血や分類、カテゴリーの動揺と境界域は、人文・社会学系諸科学のホットなテーマです。何故かがわかれば、大学は卒業です。


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