第7章 ヒムラーのアーリア人種観とその帰結
―親衛隊による「血の選別」―

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要約

ナチスによるユダヤ人やその他の人々の虐殺、強制的断種措置といった行為の基礎にあったものは、「アーリア人」という観念や、人種主義である。ヒムラーは、1929年に、この人種主義的実践の中心的遂行機関である親衛隊の全国的主導者となった。ヒムラーのアーリア人種観の基本的な要素は3点にまとめられる。第一に、アーリア人とユダヤ人の世界史的闘争という考え方である。次に、アーリア人種こそが唯一文化創造能力を持つという考え方である。そして第三に、アーリア人の優秀性を維持、回復させるためには、「血の選別」を行わなければならないという考え方である。

ヒムラーが「血の選別」によって実現しようとしたのは、「大ゲルマン帝国」の建設である。この「大ゲルマン帝国」は、ナショナリズムとは完全に対立するものであり、ドイツ人やゲルマン系の諸民族だけでなく、「種の類似した血」を持つ民族をもまとめ上げる「大ゲルマン帝国」であった。その理想の実現のため、東方地域では、広大な領域での「ゲルマン化」が必要だと考えられた。占領地域では、「ゲルマン化不可能」とみなされた非ドイツ人を追放、絶滅させ、そこに「ゲルマン的血」の持ち主を入植させるという「民族の耕地整理」が構想された。こうして、この地にとどまってもよい非ドイツ人と追放される非ドイツ人とを選別するために、親衛隊の「人種的基準」が占領地住民や民族ドイツ人にも適用されることになる。

そして、実際に行われた措置において大きな役割を果たしていたのが、「人種専門家」である。この「人種専門家」は人種主義の理論家であると同時に、人種的選別の実践家でもあるという二重の機能を特徴としており、ヒムラーの「大ゲルマン帝国」の建設に向けて多大の貢献を行ったのである。ヒムラーの人種主義的構想は、それを共有する多数の専門家によって理論を実践に移すことができたのであった。

用語解説

感想

 ヒトラーは知っていたけれど、ヒムラーや親衛隊の存在は初めて知りました。ナチスのしたことは単に独裁者の特異な人種主義の結果ではなく、その思想に共感、共有して関与していた人が多くいてはじめて実践に移せたのだという面も考えることは、重要なことだと思いました。今でも、多くの国で、こうのような差別的な思想は根強く残っていると思います。

コメント 人種差別と人種意識の歴史を学ぶことは、国際化する世界に必要な教養だと思います。


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