第13章 女性の天国か、地獄か
−オーストラリア女性史−

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要約

ゴールドラッシュ以前のオーストラリアでは、女性の少なさから、ほとんどの女性は若くして結婚した。女性に開かれた賃労働の種類は少なく、最大の職業機会は家事奉公人になることであった。

労働者階級の女性の多くは、初等教育を終えると賃労働に従事した。しかし、中産階級の女性が家庭に閉じ込められていたという主張はおそらく間違っている。彼女達の交流範囲は親戚・同じ教会の信者・友人と広がっており、これは後に、禁酒運動、女性解放運動などの改革運動にもつながった。

19世紀末には中産階級の妻たちは専業主婦となった。交通機関の発達やガスや電気の普及により、家事労働が大幅に軽減されたため、中産階級の女性は家事奉公人を雇わなくなり、1人で家事育児をする主婦となっていった。しかし労働者階級の女性が主婦となるのはまだ先である。第2次大戦後、多くの家庭で夫が働き妻が家を守るという生活が可能になるとともに、女性の教育水準も上がると、女性達は公的な部門での差別を非難するようになった。

19世紀の終わりごろ、女性の賃金は男性の半分に過ぎなかった。第2次大戦中には軍役についた男性の変わりに、男性の仕事を行う女性の賃金を設定する委員会が設置され、後には多くの労働組合も男女同権を求めたが、はかばかしい成果は見られなかった。

第一次大戦中から1970年までは、女性組織は男女同一賃金の要求など地道な活動をしていたが、オーストラリア女性解放運動が登場すると、妊娠中絶の権利・性の解放などを目標とした、攻撃的な女性運動が始まり、多くの要求が実現されていった。

用語解説

感想

現在、主婦は女性を家庭に閉じ込めるものとして非難する声も多いが、もともと主婦とは裕福な家庭の女性にのみに許された、特権的な地位であったという話を聞いたことがある。ともあれ、現在は多くの女性が外で働く時代。男女の賃金格差を取り除くことは絶対に必要だ。しかし、こういった運動はしばしば極端に走りがちなのか、現在の日本について言わせてもらえば、「男女」をわざと「女男」と言うなど、見当違いの動きもあるようだ。

コメント 女性の地位をめぐる歴史は、ますます一般化が困難になりつつあるね。日本ではあまり言われないけれども、アメリカではすでに女性史は退潮しつつあるんだ。


交通機関の発達やガスや電気の普及により、家事労働が大幅に軽減されたことが、中産階級の女性が家事奉公人を雇わず、自分で家事を取り仕切る主婦になった一因であったことは意外でした。家事奉公人を雇うということは、自分たちのステイタスを示す意味合いも大きかったと思うので、家事労働の負担量が減り、便利になっただけで、その習慣がなくなるということには少し疑問を感じました。

コメント 中産階級に関しては、家事労働の軽減ではなく、家事奉公人のなり手が少なくなったことが、自分で家事を取り仕切るようになった原因です。


女性の参政権が世界でも早期に認められていたことから、オーストラリアを単純に男女平等意識の進んだ国だと思っていたが、必ずしもそうは言えないことが分かった。フェミニズム運動の出発点が、男女の役割を規定した上での女性の地位向上にあったという事実も意外だった。

コメント 19世紀の第1波フェミニズムについては、古い性的分業を前提としていたというのは、研究史の常識です。


イギリス産業革命が女性に与えた影響について調べた時に、職場と家庭の分離によって、女性が公的な領域から疎外されるようになったという主張があった。しかし、この章では、女性は家庭を中心に、広い活動を行い、それが後に改革運動にもつながっていったという見方で、きっとどちらにも一理あるのだろうと思った。女性史をやってみたいと思うけれど、女性といっても階級、人種によって様々なので、広く目を向けていかなければいけないと思った。

コメント 公的領域と私的領域の分離のイデオロギーを現実として理解する歴史研究のやりかたに、イギリスでもすでに批判が出ていると思うよ。


女性として、この章は大変興味深く読みました。初めは、自分の将来とダブらせながら、家庭で夫に養われて暮らすことが幸せなのか、それとも外に出て働くことが幸せなのか、前者なら天国、後者なら・・・と考えました。しかし、働かなければ生活していけなかった女性たちにとってこの状況はどれほど過酷だったのだろうか、と考えると賃金が約半分、というのはありえない状況だったと思いました。

コメント 今でも男女の実際の賃金差は大きく開いているよ。オーストラリアも日本も同じさ。同一労働、同一賃金の原則も日本にはないので、パートで働く割合の多い女性は、仕事の割には低賃金という状況だね。


女性と一言で言っても、出自や階級、仕事、家族構成、居住地などによって置かれている立場や生活状況は大きく異なるため、女性を一般化するのは無理がある。そう考えると、女性運動にすべての女性が含まれないことも理解できる。結局のところ、女性運動を展開して一部の女性は権利を獲得したが、その一方で権利を認められない女性との間で新たな格差、差別を生み出したといえるのではないか。

コメント 最近の傾向はそういう一元的な女性運動批判に力点が置かれているよ。まだまだ時代遅れの?フェミニストもいるけどね。これは独り言です。


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