第18章 ヨーロッパ国家からの変貌
−マルチカルチュラル・オーストラリア−

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要約

オーストラリアが多文化社会となったきっかけは、第二次世界大戦後に、大陸防衛と経済復興・経済成長を目的として、大量移民政策が実施されたことにあるといえる。オーストラリアは戦後、戦災や社会主義革命から逃れた北欧や東欧からの避難民や、ギリシャ人、イタリア人を中心とする非英語系ヨーロッパ人の移民を、大量に受け入れていく。さらに、このような南ヨーロッパなどからの移民が枯渇しはじめると、次はトルコ、レバノンなど中近東からの移民を受け入れていく。

このようにして、戦後の大量移民政策は、流入者の顔ぶれを変化させながら、オーストラリア国内の人口構成を大きく多様化させた。その結果1970年代になると、大量移民政策によって堅持しようとしていた白豪主義政策にも修正を加える必要が生まれた。

白豪主義への修正は、主に、1956年にアジア人でも国籍所得が可能になったことや、58年の英語書き取りテストの廃止などによって行われた。そして、67年にはトルコからの組織的移住が認められ、アジア系移住者の大量移住は依然として禁止されているものの、白豪主義をほぼ終焉した。

白豪主義に代わる政策として、多文化主義が提唱されるのは、1973年にアル・グラズビーが連邦労働党政府の移民大臣に就任してからである。多文化主義とは、非英語系移民・難民のもつ多様な文化・言語を承認し、その保護と発展を、オーストラリア国民文化の発展に役立てようとするものである。この多文化主義は1978年に多文化主義に関する勧告である『ガルバリー報告書』をフレイザ保守連合政権が採用してから、本格的に導入されていく。この多文化主義政策は紆余曲折を経ながら現代も続いているのである。

用語解説

感想

本章の最後でも述べられているように、今日、オーストラリアでは伝統的国民文化の動揺に不安を感じ、多文化主義に反対したポーリン・ハンソンが論争を引き起こしたり、ハワード連邦首相はアボリジナルとの和解協定を拒否し保守層から支持を集めたりしている。 また、多文化主義はマイノリティの権利を保障すると言うよりは、むしろマイノリティに一定範囲内で権利を認めることによって、結局は支配層の支配をよりやりやすいものにしているだけなのではないかというような批判も出ている。このように多文化主義は現代において大きな岐路に立たされているのではないかと感じた。

コメント 感じるのはいいけど、実際に岐路に立たされているんだ。だからどうしようというのが、今の問題関心さ。


白豪主義と多文化主義、と一言で言ってしまえば、相対する二つの考え方がぶつかって問題となっている単純な図式のような印象を受けますが、実際はいろいろな問題が複雑にからみあっているのだなあと改めて感じました。多文化主義と言っても、すべての文化が平等に扱われているわけではなく、現実には人種などによって文化の間に力の上下があったりするところが、この問題をより複雑にしているように思いました。

コメント 多文化主義は大きな論争の的になっています。


シドニーオリンピックでのキャシー・フリーマン選手のパフォーマンスのことは記憶にあります。そのときはアボリジナルは森の中や山の奥に集団で住んでいるイメージがあったので、オーストラリアの人々の中で生活する実際のアボリジナルを見たのはあれが初めてだったと思います。まだ国内で完全には多文化社会が定着していなかったからこそ、それを浸透させるために全世界に向けて放送されるオリンピックの場で多文化社会を強調したのだと思いました。

コメント オリンピックが大きな宣伝の場であったことは確かだと思います。


どんな人間にも平等の権利がある、そんな個々の権利を認めるのはとても難しい。オーストラリアの場合は大陸防衛と経済成長の為という、多くの国民にとって得、とか利益になる部分あって、権利回復はすすんできた。人間とは平等であるべきだとか理想論を言っていても始まらなくて、多くの人が納得する理由、(それを進めることが自分たちにとっていかに得であるか)をいえるかが重要になってくると思った。

コメント どういう要因が人間の平等を進める力になるのか、歴史的には大きな問題です。


政策は変えられても、人々の中の意識というものはそう簡単には変えることができないのが、人種問題の難しいところだと思った。オーストラリアが多文化主義に動き出したのは自国の経済成長のためであったけれど、今は同じ人間として真剣にこの問題に取り組んでいかなければいけないと思う。それはアメリカの先住民やアイヌの問題でも同じだと思った。

コメント なぜ多文化主義を採用したか、それは論争になっているよ。外的要因、内的要因といろいろ複雑なんだ。これに白人研究もからんで大変。ガサン・ハージの本を読んでみるとよいよ。


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