文学環境論コース

bungakukankyo.jpg 文学環境論コースでは、幅広い視野を持った研究を求めて、世界と日本の文学を対象とし、作品の内部の世界とそれを取り巻く外界(環境)との関わりを、自然環境・人間環境・文化環境など多元的に検証し、領域横断的な課題を追究していきます。

例えば、テクストをその時代の社会や文化、常識や通念などの文脈に置きなおして読む、発表の場となったメディアを問う、美術・演劇・映画など他ジャンルとの関係を考えるなどは重要な作業でしょう。海外の先進的な研究理論を援用したり、作品に潜在する実相を現代的な視点から浮かび上がらせたり、精読の実践として作品を翻訳することなどもまた新たな問題意識を得る方法になります。

ただし、そのような研究のためには、文学研究についての基礎的な力と作品を精確に読み取る力を習得していることが必須です。研究方法についての知識や文学理論を理解するための語学力を養うことも必要となります。研究の土台となるそれらの力をさらに伸ばして、個性的で斬新な研究が展開することを期待しています。

粘り強く真摯な取り組みを通して、今日的な知見と広範な素養を修得し、幅広い職種で活躍できる高度な専門的職業人の養成をめざします。

教員紹介

教授 三谷 研爾 教授 金水 敏 教授 石割 隆喜 准教授 鈴木 暁世

教授 三谷 研爾

みたに けんじ
1961年生。1987年、大阪大学大学院文学研究科博士課程中退。博士(文学、大阪大学)。大阪府立大学助手、講師、大阪大学准教授をへて2008年4月から現職。
専攻:ドイツ、オーストリア文学および文化研究
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研究紹介
カフカに導かれて始まった私の研究は、一方では現代批評や物語 理論へ、もう一方ではウィーンやプラハなどの中欧地域の都市文化研究へと展開してきました。ここしばらくのテーマは、典型的な多民族都市だった世紀転換期 のプラハを対象に、近代都市の空間がどのように形成され、また表現されたかを検討することです。この先にはさらに、絵画や写真といったビジュアルな媒体と 文学テクストの関係という問題が浮上してきそうです。さらに、近代日本におけるドイツ文化受容というテーマも、歴史社会学の成果をふまえて、いずれ本格的 に手がけてみたいと考えています。
メッセージ
もっとも広い意味での文学とは、視覚メディア(絵画や映像など)、 聴覚メディア(音楽など)とならぶ、人間の経験を表現・伝達する有力なメディア=言語にかかわる現象の総体だと言えます。そこには、そうした表現のディ テールを生み出した、地域や時代に固有の思考や記憶が深く刻みこまれていますし、そうであればこそ読者のあいだを広範囲に流通して、社会全体の意識を方向 づける作用を発揮したケースも少なくありません。このようなメカニズムを掘り起こしていくとき、歴史学や社会学、哲学や美学とも相互に乗入れる新しい文学 研究の、豊かな鉱脈が見えてくるはず。探索作業をともにする愉快で、野心的な仲間を待っています。
主要業績
『幻想のディスクール―ロマン派以降のドイツ文学』鳥影社(共編著、1994);『科学思想の系譜学』ミネルヴァ書房(共著、1994);アンダーソン『カフカの衣装』高科書店(共訳、1997);『中欧―その変奏』鳥影社(共編著、1998);『視覚と近代』名古屋大学出版会(共著、1999);『世紀転換期のプラハ』三元社(単著、2010)
概説・一般書
『ドイツ文化史への招待 芸術と社会のあいだ』大阪大学出版会(編著、2007)

2021年 9月更新

教授 金水 敏

きんすい さとし
1956年生。1982年、東京大学大学院人文科学研究科博士課程退学。博士(文学)(大阪大学、2006年)。東京大学助手、神戸大学教養部講師、大阪女子大学助教授、神戸大学文学部助教授を経て、2000年4月現職。
専攻:国語学/言語学
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研究紹介
広く、日本語文法の歴史的研究と、役割語研究に携わっている。日本語文法については、存在表現の歴史、歴史統語論、歴史語用論に関わる研究を行ってきた。存在表現は、「いる」「おる」「ある」とその敬語形の対立について、歴史的・地理的な観点から研究している。歴史的統語論については、複文の構造を中心に生成文法に準拠した研究を行っている。歴史語用論は、指示詞、移動動詞、授与動詞、敬語等に着目しながら、人称に関わる現象の歴史的変化、地理的分布等について研究している。役割語とは、人物像と結びついた話し方のステレオタイプのことで、その原理と機能、歴史的形成過程、外国語との対照等について考えている。
メッセージ
今、言語の歴史的な研究が大変おもしろくなっています。言語学の新しい理論が、言語の歴史に新しい光を当てつつあるのです。日本語は、文献、方言ともに歴史的資料の宝庫であり、世界中の言語学者が日本語のデータに注目しています。国語学で積み重ねられてきた成果も、新しい目で見直すことによって、新たな発見・再発見につながっていくことと期待されます。どうぞ、私たちの研究室においでになって、熱い探求の息吹に触れてください。私の研究や授業その他の詳細については、 ホームページ を参照してください。
主要業績
『現代言語学入門4 意味と文脈』岩波書店(共著、2000);『日本語の文法4 時・否定と文脈』岩波書店(共著、2000);『日本語存在表現の歴史』ひつじ書房(2006);『役割語研究の地平』くろしお出版(共編著、2007);『シリーズ日本語史4 日本語史のインタフェース』岩波書店(共編著、2007);『シリーズ日本語史3 文法』岩波書店(共編著、2011)
概説・一般書
『ヴァーチャル日本語 役割語の謎』岩波書店(2003);『マンガの中の他者』臨川書店(共著、2008)

2021年 9月更新

教授 石割 隆喜

いしわり たかよし
1970年生。大阪外国語大学外国語学部(英語学科)卒、大阪大学大学院文学研究科博士課程(英文学専攻)修了。博士(文学)(大阪大学、1999)。大阪外国語大学助手・講師・助教授・准教授を経て、2007年10月より大阪大学大学院文学研究科准教授。日本英文学会第22回新人賞(1999)。
専攻:アメリカ文学
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研究紹介
トマス・ピンチョンら、ポストモダニストと称される作家の作品ははたして「小説」と呼べるのか。「小説」は歴史のある時点で興り、今もしかしたらその役目を終えつつあるのかもしれないという、小説形式の歴史性とでも呼ぶべき問題に関心を抱いている。20世紀後半以降のポストモダン文学の分析を通して、広く近代という歴史的条件の中で「小説」がどのような役割を果たしてきたのか、「小説」という形式を必要としたのはどのような「人間」だったのか、といったことを探ってゆきたいと考えている。
メッセージ
そのままではまず使いこなせない機械の箱、ハードウェアであるコンピュータと、われわれユーザーとの間を仲立ちしてくれるのがOS(オペレーティング・システム)というソフトウェアであるように、文化とはわれわれ人間と環境(ハード)とのあいだを取り持ってくれる「ソフト」だといえるのではないでしょうか。その「ソフト」の一つ(たった一つ!ほかにも無数にあります)が「小説」――このような風通しのよい視点をもちながら「小説」についてもう少し深く考えてみませんか。
主要業績
「小説の非人間化−−ポストモダニズムとポストヒューマン」『言葉のしんそう(深層・真相)−−大庭幸男教授退職記念論文集』 (2015); “Rainbow’s Light: Or, ‘Illuminations’ in Thomas Pynchon’s Gravity’s Rainbow ,” The Japanese Journal of American Studies 24 (2013);「シュールリアリスティックな資本主義― Gravity's Rainbow 、あるいは Pynchon の『ポスト・ノヴェル』」『英文学研究』第85巻 (2008);「死者の〈怨〉の二つの型―フロイトの「文学」、 Vineland の"Cahmmunism"」『関西英文学研究』第1号 (2007);「Is Pynchon Too Much with the World?—“Is It O.K. to Be a Luddite?” と『ビン・ラディン』」『大阪外国語大学英米研究』第31号(2007);「ヘーゲル主義者、Stencil— V. の他者」『英文学研究』第81巻(2005); Postmodern Metamorphosis: Capitalism and the Subject in Contemporary American Fiction (英宝社、2001)
概説・一般書
『現代作家ガイド7 トマス・ピンチョン』(共著、彩流社、2014);『西洋文学―理解と鑑賞』(共著、大阪大学出版会、2011);「ポストモダンを目撃するということ―『小説の死』再考」鴨川卓博・伊藤貞基編『身体、ジェンダー、エスニシティ―21世紀転換期アメリカにおける主体』(英宝社、2003)

2021年 9月更新

准教授 鈴木 暁世

すずき あきよ
1977年生。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。大阪大学文学研究科助教、V&A(ロンドン)客員研究員、福岡女子大学専任講師、金沢大学准教授を経て、2020年4月より現職。
専攻:日本近代文学、比較文学
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研究紹介
日本近代の文学作品を深く読み込むと同時に、当時の社会状況や文化との関わりを見すえながら、その意義や問題点を探っています。近代日本の文学者たちは、先行する文学作品や海外の文学・文化などさまざまなものを糧としながら、その影響力の大きさに抗い、独自の文学作品を創作していきました。その一方で、日本文学もまた翻訳され、海外の文学者たちに影響を与えていきます。この、異言語、異文化間のダイナミックな相互交渉をつきとめ、日本近代文学の姿を捉えることに研究の面白さと可能性を見出しています。
メッセージ
文学作品をじっくりと読むこと。そして、貪欲に資料を調査すること。こういった地道な研究活動によって得られた新たな知見に基づいて、文学的想像力の源泉を問うことに研究の歓びがあります。文学者たちの想像力の熱い奔流と交感がどのように文学を生み出したのか、そして文学作品はどのように読まれてきたのかを問うことは、世界文学の潮流の中の日本近代文学の姿とその魅力を活写することにつながるでしょう。〈現在〉を生きるためにこそ、文学作品を読んでほしいと思います。
主要業績
『越境する想像力 日本近代文学とアイルランド』(大阪大学出版会、2014)、『文学 海を渡る』(共著、三弥井書店、2016)、『幻想と怪奇の英文学Ⅱ』(共著、春風社、2016)、『日本文学の翻訳と流通』(共著、勉誠出版、2018)、「芥川龍之介「シング紹介」論―「愛蘭土文学研究会」との関わりについて」(『日本近代文学』2008.5)、「J. M. シングを読む菊池寛/菊池寛を読むW. B. イェイツ」(『比較文学』2011.3)、「郡虎彦「義朝記」( The Toils of Yoshitomo )成立の背景―演劇、プロパガンダ、女性参政権運動―」(『日本文学』2019.11)
概説・一般書
「複数の手で言葉に触れる 岡井隆・関口涼子『注解するもの、翻訳するもの』を読む」(『現代詩手帖』2019.8)、『田辺聖子文学事典 ゆめいろ万華鏡』(分担執筆・事項解説、和泉書院、2017)

2021年 9月更新

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