比較文学は、主に西洋と日本の近代文学の相互関係を研究する学問です。ただ個々の作品の影響関係を貸借表や成分表示のように並べるだけではありません。そうした「西洋」の近代文学を受容する必要が生まれた文学のグローバリゼーションという大前提や、それに対する抵抗や独自の変容についても検討する必要があります。
例えば、オリエンタリズムやジャポニスムといった西洋の東洋に対する関心は、日本でどのように交錯したのか、その結果、「日本」や「西洋」という枠組み自体が、どのように作られ、変化していったのか、そのような相互交渉を扱うことこそが比較文学の本領といえます。
このほか、ある主題について世界の文学を横断するテーマ研究、絵画と文学などのジャンル間交渉、世界の各帝国と(脱)植民地主義をめぐる問題も比較文学の対象となります。したがって、近代文学といっても、狭義の小説だけではありません。絵画、演劇、映画および漫画も含む広義の物語とその越境が研究対象になります。
いずれにせよ、一方ともう一方とを比較する以上、その両方について綿密な調査と実証が欠かせません。そして両者の比較を可能にするだけの確かな外国語運用能力と厳密な方法論も求められることになります。
教員紹介
教授 橋本 順光
![]() (日英)比較文学/英国地域研究 日英におけるジャポニスム・黄禍論・旅行記の研究。 |
- メッセージ
- 「東に進むほど鉄道の発着が遅れる。これだと中国に行けばどうなるんだろう?」。ドラキュラ城に向かう英国人が不安を呟く一節です。小説『ドラキュラ』は、英国を中心に整備された交通網が逆用され、帝都に災厄が到来する物語と要約できます。今やその中国が世界で交易網を開拓する時代です。その際、中国で英国の歴史や地政学的戦略が参考にされたのではと話題になりました。同時に今は、人文学がそんなふうに役立つと自ら宣伝しなければならない時代でもあります。何より恐ろしいのは、こんな発想の世界的蔓延だと思えてなりません。
2025年 9月更新
准教授 鈴木 暁世
![]() 日本近代文学/比較文学 日本近代の文学、日本文学とアイルランド文学(英語圏文学)の相互交渉 |
- メッセージ
- 文学作品は、文化や言語を越えたさまざまな刺激のなかから生み出されます。文学者たちの創作の糧となった想像力の熱い奔流と交感、その理由を問うことは、世界文学の潮流の中にある日本近代文学の姿とその魅力を活写することにつながるでしょう。作品を読み、資料を発掘することによって得られた知見に基づいて、越境する想像力の源泉を問うことが私の研究の大きな原動力です。日本近代文学研究のフィールドは、世界に広がっているのです。
2022年9月更新