スマートフォンを利用した くずし字学習アプリ「KuLA」の開発(2016年3月)

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本研究の内容

飯倉 洋一 教授

本研究は、日本の歴史的典籍の画像データベースサービスが急速に展開し、原典画像へのアクセスが飛躍的に向上している現在、これらの画像データベースをさ らに有効に活用するためには、活字化がほとんどなされていないこれらの原典画像の本文を、読んで理解するスキルを広めることが求められる。なぜなら歴史的 典籍の本文の多くは、漢字のくずし字と変体仮名が解読できなければ、読めないからである。くずし字・変体仮名の解読は、これまで、実際にくずし字が読める 人に直接ついて学ぶのが有効とされてきた。独学が難しかったといえる。とりわけ、古文献を読む必要のある理系研究者(たとえば古地震研究者)や、海外で日 本古典文学を学ぶ学生などは、くずし字を読みたくでも、誰に教わればいいのか、どういう参考書を読めばいいのかがわからなかったというのが実情であっただ ろう。

そこで我々研究チームは、一人で学べ、かつ仲間とともに教え合うこともできる、くずし字学習支援アプリの開発 を企画した。この研究は、文学研究科「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築クラスター」、国文学研究資料館「日本語の歴史的典籍の国際共同 研究ネットワーク構築計画」、科研挑戦的萌芽研究「日本の歴史的典籍に関する国際的教育プログラムの開発」の3つのプロジェクトが連携している。

もともと本研究は、国文学研究資料館の大型プロジェクトで作成される30 万点の画像をどのように活用すべきかという課題から着想された。大阪大学はプロジェクトに参画する拠点校でもあった。

着想のヒントになったのは2点。

第一に、海外の日本研究者のくずし字への関心が高まっていること。たとえばケンブリッジ大学やハイデルベルク大学では、くずし字解読能力の強化のためにワークショップが開かれ、UCLA では変体仮名学習支援モバイルアプリの作成を模索しているという情報があった。
第二に、京都大学理学研究科の中西一郎教授が主宰する古地震研究会に、古典籍の扱い方をテーマとする講演を依頼され、その場でくずし字解読スキルが理系でも求められていることを知ったこと。
しかし、アイデアがあっても、アプリ開発はプログラムを書ける人でないとできない。この研究会には、のちに当方の科研の特任研究員となる橋本雄太氏が所属 しており、既に彼は、くずし字で書かれた画像から、言葉を検索する機能をもつSMART-GSという優れもののソフトを開発していた。講演後の懇親会で意 気投合、くずし字学習支援アプリの開発をやることは、必然の運命とも感じられた。

本研究は2015~16年度の科研 挑戦的萌芽研究に採用された。この研究では、とくに海外の日本研究に関わる方の、くずし字を含む和本リテラシー教育の現状を探り、ニーズに即したプログラ ムの開発を目指した。そこで、アプリ開発にあたって、まず日本語・英語の両バージョンでアンケート調査を実施し、アプリをどう設計し、どのような機能を実 装するかの参考とした。またベータ版を試作し、テストユーザーの意見を踏まえ、またチーム間で議論を重ねて、アプリの改良をくり返していった。一方で、海 外の日本研究者8名を招く国際シンポジウムおよびワークショップを開催し、海外におけるくずし字教育をはじめとする和本リテラシー教育の現状の情報交換に 基づく意見交換を行った。国際シンポジウムの場で、我々チームの開発した、くずし字学習支援モバイルアプリKuLA(Kuzushi-ji Learning Application)のデモンストレーションも行った。2016年2月18日に iOS/Android 版を同時公開。3月17日現在、ダウンロード数は10000を超えた。

KuLAは、簡単にダウンロードでき、電車の 中でも楽しく学べるスマホ・タブレット用モバイルアプリである。変体仮名とくずし字を合わせて278文字に対して、近世の板本から採取した3,000以上 の用例を収録している。また・学習を効率的に進めるテスト機能や、この字に相当する変体仮名やくずし字を探すことのできる検索機能、実際の和本を利用した 読む訓練ができる機能、そしてカメラとネットワークを利用したソーシャルな「学び合い」機能を搭載している。さらに学習が楽しくできるように、ゆるキャラ 「しみまる」を案内人として採用した。SNSなどでは、実際にくずし字が読めるようになったという報告や、「しみまる」が可愛いというツイートが相次いで いる。

本研究の意義は、増え続ける歴史的典籍の画像データベースサービスをより活用するために、「くずし字」学びへの敷居を低く、入りやすくしたことなどが挙げられよう。

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飯倉洋一教授のコメント

予想以上の反響に驚くとともに、実際に「歌碑が読めた」とか、「博物館に行って古文書が少し読めた」などという報告を受け、嬉しく思っています。今後は、授業や講座などでも活用してほしいと思っています。英語版も出す予定ですし、関連参考書の出版も計画しています。
みなさんも一度お試しください。楽しいくずし字の世界が待っています。