2018年度 文化勲章受章

2018年10月26日、文部科学省は今年度の文化勲章受章者と文化功労者を発表し、本研究科の名誉教授 山崎正和(やまざき・まさかず)先生が文化勲章を受章されました。(大阪大学公式ホームページは こちら

【文化勲章】 :山崎正和(やまざき・まさかず)名誉教授

人文学のあるべき姿と人類の道しるべ

文学研究科名誉教授・山崎正和先生が、平成30(2018)年度の文化勲章を受章されましたことに、心からお祝いとお喜びを申し上げます。山崎先生は昭和51(1976)年に42歳の若さで創設間もない文学部美学科芸能史・演劇学講座に教授として着任されて以来、平成7年(1995)年に退官されるまで、19年間にわたって文学部・文学研究科の教育研究に尽力されました。またこの間、大阪大学評議員を務められるなど大学全体の運営にも多大な貢献をなされました。その先生が、このたび文化勲章受章という栄誉を受けられたことは、文学研究科に所属するすべての者にとってこの上ない喜びであり、また大きな誇りでもあります。

先生はご専門の演劇学を究められただけでなく、その広く深い見識と時代の本質を見抜く卓越した慧眼で、社会や文明に関する数々の著作を発表され、我が国を代表するオピニオン・リーダーとして、現代日本の指針を示してこられました。私たちはそうした先生のご活動から人文学の「凄み」を教えられ、また人文学の持つ可能性について多くを学ばせていただきました。

人類社会の持続性についてさまざまな懸念が噴出する昨今ですが、先生には今後ともますますご健勝で、人文学のあるべき姿はもちろん、日本の、さらには人類の未来への道しるべを示していただけることを確信しております。

あらためて、このたびの先生のご受賞を文学研究科一同、心よりお祝い申し上げます。

2018年11月
文学研究科長 福永 伸哉



人文学のこれからの姿を

このたび、文学研究科の名誉教授山崎正和先生が、平成30年度の文化勲章を受章されました。心よりお喜びを申し上げます。

山崎先生は、昭和51年に大阪大学文学部の当時の呼称で美学科芸能史・演劇学講座に教授として着任されました。この時には既に昭和38年に発表された戯曲『世阿弥』の作者として世に出ていらっしゃいました。この戯曲は第9回の岸田國士戯曲賞を受賞された作品で、その後繰り返し上演され、日本の現代演劇史にはなくてはならない作品となっています。その他にも『実朝出帆』(昭和48年、文部省芸術祭優秀賞)、『オイディプス昇天』(昭和59年、読売文学賞)、『二十世紀』(平成10年)、『言葉 アイヒマンを捕らえた男』(平成14年)などを含む多数の重要な作品を発表され続け、今日に至っています。また『演技する精神』(昭和58年)は、捉えがたい「演技」というものの現象と本質を、広範な演技論の先行研究を踏まえ独自の観点から論じた見事な研究成果で、広い一般読者にも読めるものになっていますが、社会の中の演技の様相と機能を考察する、今日で申す「パフォーマンス・スタディーズ」の先駆けともなっており、今や演劇理論書として演劇学徒の必読の参考文献となっています。

また山崎先生はいわゆる研究という狭い枠内に閉じこもるのではなく、広く評論活動を展開されても来られました。『劇的なる日本人』(昭和47年、文部省芸術選奨新人賞)、『病みあがりのアメリカ』(昭和50年、毎日出版文化賞)、『柔らかい個人主義の誕生』(昭和59年、吉野作造賞)、『社交する人間 ホモ・ソシアビリス』(平成15年)などそれぞれ時代に呼応するように、日本人論、アメリカ論、現代文化論、世界文明論など優れた批評を次々と発表され、それは現在も継続中です。これらの評論活動は、私たち日本人が自らのアイデンティティを探求し、戦後世界の多様化する社会の中でどのように自分を見つめ、日本を考え、世界と関係を持っていけば良いのかという難しい問題について、優れて示唆的であり続けていることは言うまでもありません。

山崎先生はこれらの活動以外にも、様々な社会的活動に参画されてきました。ご専門の演劇分野での財団法人新国立劇場運営財団理事などはもとより、経済産業省参与、内閣総理大臣や官房長官の諮問機関委員、文科省第四期中央教育審議会会長など日本の重要な施策決定に関する組織でのご活躍をされて来られました。また関西の企業文化のあり方や意義についても関心が深く、財団法人サントリー文化財団の創設にも尽力され、昭和54年からは同財団の理事をお勤めです。これらの活動は山崎先生がいかに深いところで日本社会に関わって来られたかをよく表しています。そして同時にこれらは日本人への暖かい視線に支えられており、平成7年の阪神・淡路大震災の際にはご自身も被災されましたが、その際の市民ボランティアの活動に日本の市民社会の成熟を見て取られる視線と繋がっているものです。

このように山崎先生は劇作、演劇学、大学、評論活動、社会活動など複数の分野で極めて広範な活動をされてきました。このような山崎先生のお仕事に対して、平成11年に紫綬褒章の受賞、平成19年に文化功労者の顕彰を受けられています。山崎先生が大学教育を受けられたのは、京都大学文学部と文学研究科においてです。山崎先生のこれらの広範なお仕事ぶりは、文学部・文学研究科で仕事をする後進の私たちにとっての大きな道しるべとなるでしょう。文学部・文学研究科の研究・教育が狭い枠内に留まるのではなく、それを土台により広い世界で縦横無尽に活躍できる人材を育てようとする、人文学のまさにこれからの姿をお示しになっているのだと理解しています。

山崎正和先生、この度の受賞、誠におめでとうございます。そしてこれからもご活躍をお願い致します。

演劇学専門分野 教授 永田 靖