2017年度 文化勲章・文化功労者

2017年10月24日、文部科学省は今年度の文化勲章受章者と文化功労者を発表し、本研究科の名誉教授 斯波義信(しば・よしのぶ)先生が文化勲章を受章され、文学部元教授 東野治之(とうの・はるゆき)先生が文化功労者に選ばれました。

無上の喜びと、粛然たる思いと

文学研究科の名誉教授・斯波義信(しば よしのぶ)先生が、平成29(2017)年度の文化勲章を受章されましたことに、心よりお喜びを申し上げます。斯波先生は昭和44(1969)年から昭和61(1986)年までの間、文学部で教育・研究活動に尽力されたのみならず、文学部、さらには大学全体の運営に多大な貢献をされました。その先生が、平成18(2006)年の文化功労者としての顕彰に引き続き、このたび文化勲章受章という栄誉を受けられたことは、大阪大学文学研究科に所属するものとしてこの上ない喜びであります。

また併せて、東野治之元文学部教授(奈良大学名誉教授)が文化功労者に選ばれたことも、私どもにとっては喜ばしいニュースであります。東野先生は、平成6(1994)年から平成11(1999)年まで大阪大学文学部教授でいらっしゃいましたが、さらに遡って昭和63(1988)年から兼任教員として文学部の教育・研究指導に従事されています。

斯波先生、東野先生がすばらしい栄誉を受けられたことが、わが文学研究科にとって至上の喜びであることは言うまでもありませんが、両先生が築き上げられてきた学的伝統の上に今日の文学研究科があるという事実の前に、その一員として粛然たる思いを禁じ得ません。お二人の、厳格にして創造的であり、またグローバルな視野に富んだ研究の伝統を、ぜひ後生まで引き継ぎ、守り育てていかなければならないという決意を新たにいたしました。

改めまして、斯波義信先生、東野治之先生、このたびの受章・顕彰、誠におめでとうございます。

平成29年10月
文学研究科長 金水 敏



【文化勲章】 :斯波義信(しば・よしのぶ)名誉教授

人文学にとって また文学研究科にとっての大いなる朗報

このたび、文学研究科の名誉教授・斯波義信(しば よしのぶ)先生が、平成29(2017)年度の文化勲章を受章されました。ここに心よりお喜び申し上げます。

人文学の必要性如何が話題にのぼることが多い昨今、これは、斯波先生お一人にとどまらず、日本の人文学にとって、また大阪大学文学研究科にとっての大いなる朗報です。

斯波先生は、1969年4月から1986年3月まで文学部で教鞭を執られたのち、東京大学、国際基督教大学でも活躍され、その後は(財団法人)東洋文庫の理事長や文庫長として、日本における東洋学のグローバル的展開のために尽力されておられます。なお、2003年に学士院会員に選出され、2006年に文化功労者として顕彰されており、今回はそれに続く受章です。

先生のご研究の真骨頂は、宋代の商業史を基礎としつつ、欧米の歴史学界における斬新な研究方法や問題意識を取り入れ、新たな研究の枠組みを提示して、中国史研究につぎつぎと問題提起されたことにあります。その精力的な研究・教育活動によって、日本の中国社会経済史研究は欧米・中国をはじめ、世界の歴史学界と対話可能となり、世界をリードすることになりました。

先生の業績のもうひとつの特徴は、その幅の広さにあります。宋代以降の中国社会を、商業の発展を原動力としてとらえつつ、都市、交通、環境などの諸問題を含む全体の構造的変化として包括的に分析しておられます。そして、国内における商人の移動、それに続く農民の移住・開発の延長上に、華僑、つまり中国商人の対外進出を展望し、その分析をつうじて、中国社会経済史を一国史の内部に閉じこめず、世界的な連関のなかにおく試みを展開しておられます。

代表的な著作として、『宋代商業史研究』『宋代江南経済史の研究』『華僑』『中国都市史』がありますが、先生の研究が要領よくまとめられている論考として、「中国と商業」(『大阪大学大学院文学研究科紀要』第48巻(斯波義信名誉教授 山崎正和名誉教授 文化功労者顕彰記念号 2008年3月 pp. 3-17)があります。下記のURLからPDFを入手できますので、是非ご一読ください。
http://hdl.handle.net/11094/7073

東洋史学専門分野 教授 片山剛



【文化功労者】:東野治之(とうの・はるゆき)名誉教授

人文学への大きな貢献

このたび、文学部元教授・東野治之(とうの はるゆき)先生が、平成29(2017)年度の文化功労者として顕彰されました。ここに心よりお慶び申し上げます。

昨今の人文学を取り巻く厳しい環境のなか、このたびの顕彰は、東野先生お一人にとどまらず、人文学に携わる者すべてにとって、大いなる吉報です。

東野先生は、奈良国立文化財研究所・奈良大学を経て、1982年4月に大阪大学教養部に着任され、1994年4月から1999年3月まで文学部教授として教鞭を執られました。2010年には「日本古代史に関する研究に努めて優れた業績を挙げ学術の進歩に寄与した」として紫綬褒章を受章され、また、日本学士院会員に選出されています。第1回濱田青陵賞、第27回角川源義賞、第62回毎日出版文化賞をはじめ、数々の受賞歴もあります。

東野先生のご専門は、飛鳥・奈良時代を中心とする日本古代史です。実に多岐にわたる業績をあげられていますが、特に顕著なのは史料学、対外交流史の二分野です。

史料学の分野では、木簡、金石文(仏像銘文、刀剣銘、墓誌など)のご研究が特筆すべきものです。奈良国立文化財研究所で草創期の木簡研究をリードされ、揺るぎない研究の礎を築かれるとともに、国制史から上代国語にわたる広範な問題提起をされました。また、詳細な実物観察にもとづき、該博な漢籍の知識を駆使されながら、難解な金石文の解読に精力的に取り組まれ、天皇号の成立や聖徳太子信仰についても重要な発言をされています。

対外交流史の分野では、大和古寺に残されてきた文化財への深い愛着、異国文化への強い憧れを背景に、一字一句ゆるがせにしない厳密な文献の読解、漢籍に関する広範な知識、文物に対する確かな観察眼に下支えされながら、遣唐使、鑑真を中心に、日本における外来文化受容の特質を明らかにされました。ワーグナーの熱烈なファンとしても知られ、明治期日本におけるワーグナー受容のご論考もあります。

先生の著作は膨大であり、単著だけで22冊にも及びます。研究書としては、『正倉院文書と木簡の研究』『遣唐使と正倉院』『日本古代金石文の研究』『大和古寺の研究』が代表的です。一般書としては、ごく最近のものとして、『史料学探訪』(岩波書店)、『史料学遍歴』(雄山閣)、『聖徳太子』(岩波ジュニア新書)があります。一般書は平易な文章で書かれ、歴史の謎解きを十分に堪能できますので、是非手にとってみてください。

日本史学専門分野 教授 村田路人