鈴木聖子 助教 芸術選奨 文部科学大臣賞(評論部門)

鈴木 聖子 助教(大阪大学大学院人文学研究科芸術学専攻)が、芸術選奨 文部科学大臣賞(評論部門)を受賞しました。受賞式は3月12日(火)に執り行われました。
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鈴木 聖子 助教のコメント

著者の専門である音楽史・音楽学とも、隣接する芸能史・演劇学ともいいがたい、それらの境界線上にある本書に光をあてて、筆者の問いに筆者以上の優れた解釈を与えて授賞して頂いた芸術選奨の選考審査員の方々に心より御礼を申し上げたい。

受賞対象となった研究等の概要

鈴木聖子_フランス国立図書館(学会発表写真).jfif 受賞の対象となった本書『掬われる声、語られる芸: 小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』』(春秋社、2023年)は、筆者が2014年からフランス・パリの大学で日本学の教員(講師・助教)をしていた頃に始めた一連の研究、« L’identité culturelle dans les discours sur la musique d’Okinawa : le cas des intellectuels de la métropole japonaise »(沖縄音楽についての言説における文化的アイデンティティ:日本本土の知識人たちの事例、2014年)、« Le striptease et les intellectuels des années 1960 – 1970 : Ozawa Shôichi et Document / Arts itinérants du Japon »19601970年代におけるストリップと知識人:小沢昭一と『ドキュメント 日本の放浪芸』、2016年)、« Entre les paroles et le chant : la revendication de l’oralité dans les années 1970 »(言葉と歌のあいだで:1970年代におけるオラリティの復権声明、2019年)の口頭発表を論文にしたものを、20204月に大阪大学大学院文学研究科音楽学研究室へ着任後、令和2年度~令和3年度文部科学省科学研究費・研究活動スタート支援「小沢昭一における音楽芸能の正統性の概念の研究:LPレコード集『日本の放浪芸』を中心に」(20K21931)によって発展させた成果の一部である。

 新劇俳優・小沢昭一は、1971年から1977年にかけて、高度経済成長期に失われつつあった路傍の諸芸能を担う人々(猿回しなど大道芸人、瞽女やイタコなど盲目の芸人、見世物小屋の呼び込み人、流しの芸人・・・)を自らの足で探し出してインタビューと共にそれらの芸能を録音した。そしてそれらを「放浪芸」と名付けて自分の語りによって繋ぎ、LP『ドキュメント 日本の放浪芸』というドキュメンタリー・レコードをビクターから刊行した。本書はこのベストセラーとなったLPの制作の文脈を、当時のビクターのディレクター市川捷護氏ならびに小沢の劇団のプロデューサー小川洋三氏へ筆者が行なったインタビューを元に分析したもので、近代日本が西洋の演劇を取り入れたことで喪失した日本の芸能の文化的アイデンティティの問題、そしてこれらの芸能を一段低いものとみなしてきたアカデミズムや文化財保護制度の問題を、1970年代に遡って紐解き歴史的に位置づけつつも、音楽芸能の現在の「保存」「保護」の在り方を問う視野から突き詰めることを試みた。

2024年3月 鈴木 聖子

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