第16章 なぜ白人性研究なのか?

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紹介

これまで、人種・エスニシティの研究は、黒人やアメリカン・インディアン、中国人やイタリア人などのエスニック・グループに集中していました。それぞれの集団がどのような歴史を持ち、どのように差別を克服してきたか、という点では理解が進みましたが、人種関係のもう一方の当事者の「白人」を理解する試みは、十分になされてきませんでした。つまり、よかれと思って行われた研究、また、積極的な結果を生む研究であっても、それは全体として、マイノリティ集団をマークし(後ほど説明します)、それ以外の人びとをマークされていない規準として、正常化するという働きをしてきたという側面があります。白人集団が研究されることはありますが、たとえば、それは「白人」労働者の研究ではなくて、単なる労働者の研究、「白人」女性の研究ではなくて、単なる女性の研究として行われてきました。この「白人」を俎上にのせて、可視化しようとするのが、本書のねらいです。

白人は、あらゆる人種差別に関わりを持っているのに(あらゆるは、言いすぎです)、そのあり方が問題にされるのではなく、人種差別の対象となった黒人や先住民の方が問題とされてきました。黒人問題、先住民問題という言葉はあっても、白人問題という言葉はありません。もっと中立的に人種問題と言っても、人種として問題とされているのは、黒人や先住民です。解決すべき課題が、黒人問題や先住民問題だとして語られるのは、ちょつとおかしいのではないでしょうか。黒人問題や先住民問題ではなく、白人問題を検討する必要があるのではないか、それが白人に着目する一つの理由です。


白人性研究をしている人は、歴史分野のようなけっこうリジッドな(だからいいとは限りません)分野の人を除くと、たいがいはポストモダニスト(かっこよかったら、ぼくも仲間に入れて)と呼んでいいような人たちです。もちろん、英語世界には、はやっているから本にホワイトネスとつける人もあとを絶ちません。白人の擬似科学的人種主義をまともに扱っても、白人人種主義とは言わずにホワイトネスと言うのは、「どんなもんやろう」と思います。さて、ポストモダン的な白人性研究の立場からすれば、白人は普遍的な人間存在の象徴として、正常なもの、すべての人間の規準(尺度)でしたから、それ自体が問題にされることはありませんでした。白人は、他の人種や民族を測定する尺度になることで、測定の対象、つまり観察の対象にはならずに、見過ごされてきました。白人が尺度である限り、白人問題は起こりえないのです。てなぐあいに、言うことになります。学生さんは湯ぶねにつかって、こんなせりふをプラクティスしてください。(「使ってなんぼの商売や。」どこかで聞いたような。「し・か・と」好きです。オタクかいな)。繰り返していっていると、本当のように思えてきますからね。これについては、また説明しますから、怒らんといてください。

白人は観察者として、規範を設定し、マイノリティの研究を進めてきましたが、これは限界に近づいています。前にも書きましたが、眼差しの根源であって、観察者であった白人を、歴史的に特殊な存在として観察の対象にする必要が生まれてきたのです。比喩的にいえば、白人を、白人社会を、未開社会のように観察の対象にするのです。ただし、白人とは誰かということは、ひとまず括弧にくくっておきます(この段落は調子に乗りすぎ、また怒られるで、ほんとうは、それだけじゃたらんよ、まったく)。

マイノリティ集団について知ることはとても大切です。しかし、現代社会と現代世界とその差別(差異)の構造を理解するためには、差別を生み、差異の根源になっている集団とその規範も理解しなければなりません(ちょっとはりきりすぎ。こう書いてて気が引けます)。差異を生み出す社会の一員としての、自分自身のアイデンティティを確認するには、白人性ということを考えてみるのは、無駄なことではないでしょう(ちょっと遠慮か)。


自由主義と人種主義、自由主義とナショナリズム、民主主義と人種主義が渾然となっているような世界、そういう世界こそが、ぼくが歴史ガイドとして案内したい世界です。あらゆる人間の平等と差異の自由交換、その可能性が生まれたのが18世紀であったとすれば、男女の領域の分離、擬似科学的な人種主義、ブルジョワ民主主義のようなものが、そうした可能性を複雑に押しとどめ、国民国家を基本とする国際秩序が地域的分断を保持してきたわけですが、グローバリズムが拡散するここ20年ほどの間に、18世紀に開かれた可能性は解き放たれました。けれども、それはユートピアではないでしょう。可視化された差異が解消する過程で、見えない差異がそれに取って代わり、それが差別を固定化する役割を果たす。しかも、それは自由主義、民主主義のリトマス紙を中性でパスし、多文化主義やハイブリディティ検定協会の推奨を受け、ポストモダニズム還元ポイントをもらうかもしれません(ガイドとか言ってますが、実は何を案内していいのか、どうして説明していいのか、わからなくなっていますが、ガイド料を前払いでいただいているので、続けます)。

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