藤川 隆男 教授《西洋史学専修》

fujikawa_takao.jpg ふじかわ・たかお
1959年生。オーストラリア国立大学史学科MA取得、大阪大学文学研究科博士後期課程中退。帝塚山大学助教授、大阪大学文学部助教授を経て、大阪大学文学研究科教授。主な著書に『猫に紅茶を』『人種差別の世界史』、編著に『白人とは何か?―ホワイトネス・スタディーズ入門』など。

聞き手・構成=河村聡美(比較文学専修2年)、天野澪(比較文学専修2年)

『大阪大学文学部紹介2012-2013』からの抜粋。聞き手の学年は取材(2011年10月)当時。

研究への志

天野:なぜ西洋史学を志そうとしたのですか。

もともと歴史好きで歴史をやろうとは思ってたんですが、東洋史は漢字が難しいので、ちょっと無理かなって…(笑)。あと、日本史は古文書を読むのが苦手で、「古文書はみんな同じような字やなぁ(笑)」と。やっぱり漢字がネックになって…西洋史くらいしかないかなって。

河村:ではなぜオーストラリアを選んだんですか。

もともとはヨーロッパの外交史をやろうと思っていたんです。けど、ヨーロッパの歴史自体がパターンが決まりきったような歴史だったので、あまり面白く感じなかったんですよ。それで黄禍論の研究をしようと思い直して、黄禍論の影響を受けた地域の中で一番研究が進んでいなかったのがオーストラリアだったので、オーストラリアを選んだんですよね。それで黄禍論から白豪主義の研究へって感じです。他には、いろんな西洋史を……西洋を中心として西洋史を見る歴史ではなく、日本を中心として西洋を見るという歴史に変えたかったということがあるね。西洋を中心として見ていたらオーストラリアは歴史の中に入ってこないけど、日本を中心として西洋を見ると、オーストラリアやアメリカ、カナダなどの地域が歴史の射程にずっと入ってくるんですよ。だから、そういう意味では歴史の寄って立つ場所っていうものを根本的に変えたかったっていうのがありますよね。日本に立って西洋を見たらどう見るかみたいなことを普通に考えていくと、たぶん普通の歴史の形になるっていう…今までの形自体が少し異様な形で…それをちょっとそうではない形で歴史を変えてみたいっていう思いがあったんです。まあ、オーストラリアはこれまで研究がされてなかったので大変でしたけどね。先行研究みたいなものが国内にほとんどないし、そもそも参考になるような研究とか研究者もいないし、道もないので、すごく大変でした。一から十まで全部やらないといけませんから。だから、海外の先生とコンタクトを取って、それから芋づる式に次の先生、次の先生…というふうにやっていくしかなかったですね。研究者になることを考えたのは、博士の後期で留学をしたときですかね。

学生時代

河村:学生時代はどんな風に過ごされましたか? 高校時代、サッカー部だったとお聞きしましたが。

でも、野球のほうが好きだったんだよね(笑)。けど野球は坊主にしなきゃあかんくって、定期的に散髪をするのがめんどくさかった。だから、長髪でも構わないサッカーをやっていましたね。2年生のときは、大体ずっと本読んでいたかな。政治系の雑誌や、文芸雑誌、新聞あたりは全部、あとは古典も読んでいたかな。大学の教養課程で読むような史学系の本は、高校時代に全部読んでいた。だから大学に入ったときは、教養で教えてくれるぐらいのことはみんな知っていたので、西洋史で読む本は、たとえ翻訳があっても英語で読んでいたかな。英語を早く読もうと思ったからね。あと、ぼくは母子家庭だったので、バイトをたくさんしていたから、時間を有効的に使わないといけなかったんですね。ある期間に特定の言語を集中的に勉強して、早くその言語を身につけて処理できるようにならないといけない。英語ができるようになると、フランス語と、ドイツ語。たぶん語学だけで1年は週7、2年になると週11くらいあって、しかもバイトもあったから、30分くらいで予習ができるようにしましたね。バイトは塾講師や家庭教師をやっていて、週に5回か6回入っていましたね。忙しかったので、部活やサークルはやる暇がなかった。効率的に物事が処理できるように、常に考えていたし、考えていますね。人生のポリシーですかね。

学生との交流

天野:学生と作業することも多いとお聞きしたのですが、例えばどういう活動をなさっているんですか?

最近では『アニメで読む世界史』。学生と一緒に書いたやつ。ここに書いてある……フランダースの犬とかアルプスの少女ハイジとかを読んでいく中で、そういう物語の舞台となった歴史的背景みたいなものと世界史をつなぐような話ができないかということを考えたんです。順次大学院生に参加してもらって、いろんな本を作っていこうと思っています。もちろん一人でやった方が早いですよ。ただ、なにか本を出版しようと思うと、プロのレベルで仕上げないといけない。だから、編集作業のプロセスを自分で経験できるんです。これは、大学院で論文しか書いたことがない人には、非常にいい経験になる。基本的には学生のためにしていますね。

学生へのメッセージ

河村:では最後に、学生へのメッセージをお願いします。

文学部は理系の人たちのような具体的な技術や能力がないから、他人が思いつかないようなことを思いつくようにして、それをどう実現するか、実現できるかどうかということをいろんな角度から調べる努力をしないといけないんですね。そういう力を大学の4年間の間に育んでいかないといけない。みなさんが身につけるものは具体性がないだけに一生懸命頭の中で考えて、進まないとあかんのですね。自分で目標を立てて、こういう成果を得よう、こういうものを得ようと思っていたら、失敗すると、ちょっとショックでしょう。ショックだと、当然考えるわけだ。自己嫌悪に陥ったり、今度はうまくやろうと、新しいことをやってみようと思ったり。だから、自分で目標を設定していろんなことをやって行くっていうのは、とっても大事。絶対に、与えられたものをこなすだけの状況からは抜け出さないと。自立した枠組みを、自分の中に見出したり作ったりする必要があるわけです。こういう自分の見方があって、自分の行動指針があって、外から入ってくるものをどういう風に処理していこうかっていうのを、自分自身の中で咀嚼して、対応していくっていうような。文学部にはいろんな考え方の人たちやいろんなものが集まっているところだから、特にそういったものを作りやすいと思う。そしてそれが、あなた個人にとっても大事だし、その社会全体にとっても大事。文学部の中で、特殊な能力みたいなものはなかなか身に付かないけれど、今言ったことを踏まえて、勉学にどのように取り組むか、日々考えていって欲しいです。あとは、『人種差別の世界史』を読んで欲しいですね。