「大学におけるセクシュアル・ハラスメントに関するアンケート」のまとめ


文学部権利問題ワーキング・グループ

調査の目的と経緯

文学部権利問題ワーキング・グループは、1997年5月に、学生・院生・教職員の様々な苦情に対して制度的に対応できる組織・規定作りを目的として、文学部長の下に設置されました。当初は、学生・院生・教職員に関わる権利問題全般にわたる制度および規定の作成を考え、国内外の前例などを収集・検討しました。しかし、教務の関係者などから状況を把握する中で、個別の具体的問題については、現行の各窓口を活性化する事で一応の対応が可能であると判断するにいたりました。そして、文学部の現行の窓口では対応・処理できない問題として、当面、セクシュアル・ハラスメントに焦点を絞って検討を重ねる事にいたしました。この問題は社会的な状況の中で、大学としても明確な姿勢を示す事が要求されている課題でもあり、大阪大学全体の進捗にかかわらず文学部において取り組もうとしたものです。特に1997年以降、全国の各大学からこの問題についての対応が公表されたり、文部省・労働省・人事院なども啓蒙活動やガイドラインの作成に取り組みはじめた事も周知のところであり、引き伸ばせないものと考えました。ワーキング・グループとしては、正式の委員会の設置やガイドラインの設定などが当面の課題となりましたが、議論の段階でグループ内においても、また助手を対象とした公聴会(1998年6月)でも、 セクシュアル・ハラスメントに関して、学部構成員の意識や意見、状況を把握する必要があるという意見が出、必要性が共通認識となりました。そこで、文学部教授会懇談会に諮った上で、アンケートの実施に踏み切りました。

質問項目は、ワーキング・グループが原案を作成し、教授会、助手会、および学外の専 門家の意見を組み入れた改訂版を調査に使いました。

アンケートの配布と回収

このアンケートは、文学部に所属する2年生以上の学部学生、院生、研究生、聴講生、 事務官、助手を含む教官を対象としました。その総数は、1,300名程度です。アンケート 用紙は、各教官に授業での配布を依頼するとともに、助手にも研究室での配布を依頼し、 さらに教務掛の窓口に置いて学生が自由にとっていけるようにしました。事務官には庶務 係長を通じて配布しました。用紙が学生全員の手に渡ったという保証はありませんが、教 官と助手の協力は得られたと考えています。1年生を対象からはずしたのは、アンケート 用紙の配布が難しいというのが主な理由です。

アンケートは6月中旬から配布を開始し、7月初旬までの約3週間を回収期間としまし た。回収場所は、文学部玄関にある教官用メイル・ボックスの空いているものを利用しま した。

回答数とその構成

教官 事務官 大学院生 学部生 研究生など 明示なし 計

女性 3 3 25 30 3 7 71

男性 13 4 16 7 0 1 41

性別不明 1

合計 113

学部の女子学生の数が一番多く、女子院生がそれに次ぎますが、学部の男子学生からの回収が極端に少ないのが特徴的です。

各設問についての解答結果について

どういう行為がセクシュアル・ハラスメントか

何がセクシュアル・ハラスメントであると認識されているのか意識を探ろうとしたもの。これについては、意見が一致したものはセクシュアル・ハラスメントであり、分かれているものはそうではないという判断をするものではありません。セクシュアル・ハラスメントは被害を受けたと感じるときに成立するものだからです。この点で質問は不備でした。また、回答に揺れがあったものも、表現が曖昧と判断して○を保留したと考えられるものも少なくありません。その意味でも○の割合を問題にするのではなく、誰も○をつけなかった項目はないという事が大事であり、どの行為もセクシュアル・ハラスメントになりうるという認識を私たちが持つ事が必要でしょう。

自由に書き込んでもらったものからは、女性に対する呼称(・・・ちゃん)、お茶入れ、特に女性に対して、年齢、結婚、子供などを話題にする事、就職に際しての不利益などもセクシュアル・ハラスメントの例としてあげられています。

被害体験について

性別役割の固定なども含んだセクシュアル・ハラスメントの被害の体験・目撃・伝聞について、学内の事では30件近くの報告がありました。教官から学生、事務官同士、学生同士など多様な事例が記されていました。同性間、女性からという例もあり、また、個人レベルではなく、集団における慣行・配慮不足からくると考えられるものもありました。他大学やアルバイト先で、あるいは就職の応募に際しても10近くありました。 なお、公表しないという前提であっても、言葉として表現する事が苦痛であり、記入できない場合も考えられます。誰かに相談したという人はわずかでした。 こうした結果が、少なくとも実態をある程度反映しているとすれば、文学部内外におい て、今後もセクシュアル・ハラスメントの問題はいつも起こりうると考えられます。

防止策などについて

防止策・問題解決策として相談窓口の設置を求める声が極めてたくさんありました。ガイドラインの設定を強く求める声もありました。投書箱を望む意見、女性教官が少なすぎるという指摘もありました。また、外部の意見を取り入れる事や、部内に置いてもできるだけ広範に意見を集約する事を要求する声も寄せられました。○まとめにあたってこのアンケートの実施について、遅すぎるという批判もありますが、概ね肯定的に受け止められました。これを契機に、現時点で、まず少なくともひとり一人が、自分の行為が相手に不快感を与えていないか、相手がセクシュアル・ハラスメントだと受け止めていないか、という想像力と認識を喚起する事が求められます。また、被害に遭ったと考える場合には、被害を回復する当然の権利がある事を共通認識とする必要があるでしょう。また、そのためにも、セクシュアル・ハラスメントに関する制度と、相談窓口の設置を始めとする具体策を早急に作り上げるためにワーキング・グループとしても提言していきます。

補足

なお、このアンケートではセクシュアル・ハラスメント以外の問題でも権利の侵害について尋ねましたが、成績通知の遅れ、誤り、対応の態度への不満、文学会への加入問題、奨学金が当たらない事、学部の集中講義と共通教育の授業との重なり、あるいは院生の研究環境の劣悪さなどで批判の声が寄せられています